第2話 真夜中の契約
「と、とりあえずノワールさんはこことは異なる世界…つまり異世界から来たって事ですか…?」
彼女がガラスの粉塵と共に現れてから2時間が経過した。外は暗くなる一方で明るくなる気配はないが、相も変わらず虫の音はやかましい。
「最初からそうだと言っているじゃない。いい加減信じて欲しいものだわ」
彼女はそう言うが、未だに信じる事が出来なかった。が、その裏で突然現れた少女にあんな能力を見せられたのだから信じるしかないという気持ちもあった。
「それよりもあなた、私を守ってくれるのよね?」
「その…守るっていうのも何が何だか分からないんです…」
僕がそう言うと彼女は少し考えるような表情を見せた。
「そうね…その事についてはまだ詳しく話してなかったかしら。
とりあえずあなた、右腕を出しなさい。話はそれからよ。」
逆らうことも出来ず、僕が右腕を差し出すと彼女は僕の袖をまくった。
細く白い彼女の腕が僕の目を引く。
「今からあなたは私の剣と盾になるの。
私が助けを呼んだ時にだけ、あなたの姿は見るも恐ろしい怪物に変わる…安心して、全てが終わる頃にはちゃんと元に戻すわ。」
体が今から危ない事が起きると信号を出していたがもう手遅れだった。
「魔物を統べる漆黒の王よ、今汝の力をこの者に与えたまえ…」
僕の腕を彼女の手が這っていく。
その後を追うようにして黒色の紋章が僕の腕から生まれていった。
「根底に潜む黒き力よ、その印を解きこの者の精神を蝕め…」
彼女の詠唱はたんたんと進んでいく。
進むにつれて腕の紋章は増え、禍々しく光り始めた。
やがて、部屋に風が吹き荒れ、壁や天井に傷を残す。
「ああああああああぁぁぁ!!!!!」
腕が焼けるように痛い、熱い、痛い。
「今、この者に黒き生としての力を!…」
この言葉を最後に僕は失神した。
目覚めた時には夜が明けていた。
眩しい日差しの元で蝉が鳴いている。
変わらないいつも通りの朝だ。
「なんだ…夢だったのか…」
あまりにも見慣れた朝なので昨夜の出来事を夢と認識した後の一言だったが
「何寝ぼけてるの?夢なわけ無いじゃない。」
そんな空想を壊したのは彼女、ノワールの声だった。
窓を開け、その縁に座る彼女は少し不満そうに足を組んでいる。
「やっと起きたのね、早く朝ごはんを作って頂戴。もうお腹はペコペコよ。」
「は、はい…今すぐ準備します。」
寝起きの無気力な声でそう返した。
トースターに食パンを入れ、顔を洗う。
これだけだと本当にいつも通りの朝だ。
彼女が居てパンの消費が倍になることともう一つ異なったことを除けば。
その異変に気づいたのは顔を洗おうとした時だった。
水道の蛇口を開けようとした右手が痛んだ。
(何故だろう?別にぶつけた覚えは無いけどな)
そう思い見た自分の右腕は昨日とはまるで異なっていた。
右腕の紋章が消えていないのだ。
しかも昨日よりも深く刻み込まれている。
思えば起きた時から少し痛みはあった。
だが、まさか消えていないとは。
「う、うわああああああ!!」
昨日から叫んでばかりだが、それも仕方ないだろう。
体がこの異常に対してどう対処すればいいのか分からないのだから。
「朝からやかましいわね、それともこの世界の朝はやかましいのが当たり前なの?」
迷惑そうに彼女が洗面所を覗いてきた。
いや、迷惑してるのは明らかに僕なんだが、そんな事を言えば何をされるかわからない。
「う、腕の紋章が…!」
「あら、あなた契約のことすらも夢と一緒に忘れたの?それとも紋章が消えるものだと思っていたのかしら?」
あたかも紋章が残るのは当然だと主張するように彼女は言い張る。
「それよりも朝ごはんはまだかしら、さっきからずっと言っているのだけれど。」
腕の痛みは既に引き、さっきヒートアップした頭も既に冷めていた。
チン!と軽快な音が鳴り響く。
「あら、これはなんの音?」
「あ、朝ごはんのトーストができた音です。トースターの中にあるので先に食べておいてください。」
「あら、そうなの。じゃあ先に頂くわね。
トースターは確か厨房にある鉄塊よね。あと、突然だけれど今日服の換えを買いに行くから準備してなさい。昼前には出るわよ。」
なんて我侭なのだろうか、けれど彼女の場合何故か鬱陶しいとは思わなかった。
これも彼女が貴族であったからなのだろうか、発する言葉一つ一つに何処か気品があった。
後書き
ここまで読んでいただきありがとうございます!ここからは後書きとなりますので、「そんなの興味が無いわ」っていうノワールの様な方はここでブラウザバックして頂いて結構です!(よろしければ応援だけでも押していただけると励みになります!レビューなんて頂いた暁には筆者が泣いて喜びますので是非!)
さて、今回話すのは作中の世界観についてです。
まず大前提として二つの世界がございます。
主人公、牧牝が住む現実世界とノワールが来た異世界です。
基本的にこの二つの世界の文化などは共通しております。ノワールがトーストという料理に対して疑問を抱かなかった所からも読み取れますね!
しかし、1つだけ異なった点がございます。
それは、異世界では魔法が発達し、代わりに科学技術などの工業が全く発達しておりません。
ノワールが1話でガラスを直したのは魔法という訳ですね!
また、この弊害として、異世界で鉄筋コンクリート造りの建物などは無く、レンガと木材で建築されております。
後々異世界を描写するシーンもありますので、それまでにこちらを頭に入れていただければ幸いです。
漆黒ノ噺 辰巳 こはく @tatumikohaku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。漆黒ノ噺の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます