漆黒ノ噺

辰巳 こはく

第1話 出会いと始まり

その夜はいつも以上に虫の音がやかましかった。

気休め程度に涼しい扇風機は本当に気休めにしかならない。


そんな中で僕、白樫牧牝しらかしもくめは眠りにつこうとした。


いつも通りの四畳半。

睡眠のしにくさとはもう仲良しである。


世間は夏だとか、40度を超えた地域があるだとか、花火大会が開かれるとかで盛り上がっているが全く僕には関係が無かった。


僕としては夏休みの宿題相手のにらめっことたまにの買い出しが繰り返すだけの期間になるはずだったからだ。



今夜、彼女がここに来るまでは



僕が寝ようと布団を敷いた時、彼女は現れた。


突然パリンとガラスの割れる音が響き、部屋に埃とガラスの粉塵が舞う。

僕は驚きと埃で何もわからず、ただ放心していた。


埃がようやく落ち着き、部屋の全体像が分かるようになった頃僕は絶句した。


僕が敷いた布団の上に1人の少女が座っていた。


「う、うわあああああああああああぁぁぁ」


何が起きたかわからない上に突然現れた少女に僕は叫びながら後ずさった。

部屋にある棚にぶつかり、ガシャン!と音が響く。


「っ…うるさいわね、あなた!静かにしなさい!」


座り込んでいた少女が口を開いた。

頭の中はまだ理解が追いついてないようだが、理解不能という恐怖に支配されているせいか悲鳴は直ぐに止まった。


「ここはどこなの…とにかく向こうの世界じゃあないならいいかしら…」


「こ、ここは東京です…それより、あなたは誰なんですか…?」


とにかく何か彼女についての情報を得ないと。

そうして発した言葉だった。


「あら、人に名前を聞くよりも自分から先に名乗るのが礼儀ではなくって?」


彼女はこんな事をしているのに全く動揺していないようだった。


「ぼ、ぼくは白樫 牧牝です。あなたはどちら様でしょうか?」


僕が名乗ったところで彼女は立ち上がった。

白い髪が月に照らされてとても綺麗だ。


「私はデューバ家公女のノワール・デューバ・ラック、貴族よ。あなたがこの家の所有者かしら?」


「家…というか部屋を借りているだけですが…」


「そう…まぁなんでもいいわ」


彼女は何かを考えている様子だった。

僕は未だに何が起こったか理解出来ていない。


「あなた、確か牧牝と言ったかしら…」


彼女がようやく口を開きそう言った。


「は、はい!」


「ここに来たのも何かの縁ね、突然で悪いんだけど、あなた私を守りなさい!」


さらに困惑したのは言うまでもない。

ただでさえ今自分が置かれている状況が分からないのに「私を守れ」だって?冗談じゃない!


「すみません、何を言ってるのかわからないです。」


それが本心だった。

言うと彼女はまた少し考えてから再び口を開いた。


「そうね、話すと長くなるから簡略化するけど私はこの世界とは異なる世界の貴族だったわ。

けれど他の侯爵家の陰謀で館を燃やされてね。

そこでこの世界に逃げてきたの。

今はまだ追っ手は来てないのだけどそのうち必ず来るわ。

だからその侯爵家の追っ手から私を守って欲しいの。

もちろんただでとは言わないから。」


彼女は一通り語り終えた後割れた窓の近くに立ち、窓に手を添えた。

すると、部屋に散らばっていたガラスの粉塵や破片が彼女の手元に集まり、窓枠にはまっていく。


「な、何なんだこれは…」


有り得ない光景を前に開いた口が塞がらなかった。


「どう?これでいいかしら?他にも色々出来るわよ」


「もう大丈夫です…」


彼女の提案を断った。

下手な事を言うと何をされるか分からない。

あんな能力を見せられたんだから尚更だ。


彼女は僕に顔を近づけてしゃがみこんだ。

澄んだ目の奥に僕の顔が映る。


「あら、自己紹介ならさっきもしたじゃない。

私はノワール・デューバ・ラック、気軽にノワールと呼んで頂戴。それよりも…私の事、守ってくれるわよね?」


僕は小さく頷いた。

だって仕方ない、今僕の心の中は彼女に対する恐怖でいっぱいなのだから。


午前一時、熱帯夜の下。

こうして強引に契約を取り付けられた僕と自分を異世界から来た没落貴族と名乗る彼女…ノワールとの非日常が始まった。






後書き

読んで頂きどうもありがとうございます!

ここからは話とは全く関係のない後書きとなりますので興味のない方はブラウザバックして頂いても結構です!(もし良ければレビューとかして頂けると嬉しいですし、励みになります!)


今回はこの話を作るにあたってのテーマについてお話します。

そのテーマといいますのもズバリ!自分の好きな厨二要素を全て取り入れるという事です!

自分で言うのもなんですが僕は相当な厨二病患者でございまして、四六時中頭の中で妄想しては喜んでいるような筋金入りでございます。

その要素を全て取り入れようと思って書いた小説がこちら、漆黒ノ噺となります。

そんな小説ですが皆様に愛されるような小説にしたいので応援の程よろしくお願いします!


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