22日 土曜日
22日 土曜日
サキは、土曜日だが仕事があるようで家にはいない。
僕は家に咲歩を呼んでいた。
「適当にくつろいで。荷物はこの辺りに置いてくれたらいいよ。」
「分かった。彼女さん帰ってきても知らないよ。」
「帰って来ないよ。帰ってきても何もいかがわしいことはしないんだから大丈夫だよ。」
「女の子の気持ちわかってないのね。」
そういって彼女はテレビの電源を付けた。
僕は彼女にお茶をだそうとやかんに水を入れてガスコンロで沸かしていた。
座る彼女を見ていると本当に普通の女性だ。
最近の彼女は静かで、たまに甘えてきて、でも強がりといった具合だ。
「咲歩、最近の君は最初と違って随分と変わったね。」
彼女は返事をしない。
「咲歩、聞いているかい。」
やかんから音がしていたが僕は彼女の方を優先し、テレビの前から彼女の顔を除く。
彼女は座りながら静かに寝ていた。
僕は、彼女は僕と付き合うことによって変わったと感じていたけれど本当は何かあったんじゃないかと思った。
とりあえず、水の沸騰で高い音を発しているやかんの火を消し、テレビを消した。
そして作ったお茶を飲みながら小説を読んでいると時間は流れて行った。
彼女は微妙なバランスを保ちながらまったく起きずにずっと眠っている。
いまにも前に曲がった首がとれそうで僕はひやっとする。
「咲歩、そろそろ起きてくれよ。せっかく会っているんだ。もう少し話したいよ。」
そう言って彼女に聞こえるよう大きめの声にで話すが彼女は返事をしない。
それどころか身体もびくとも動かなかった。
僕は彼女の隣に座り、彼女を見た。
さらりとした肩に柔らかくかかる髪に優しく触れる。
その髪を徐々に離していくと、儚く元の位置へと戻っていく。
僕はふと彼女の前に置いているスマホに気づいた。
どうせ開かないだろうと思いつつ彼女のスマホを手に取る。
電源をつけると以外にもロックをしていないようで簡単に中を見ることができた。
僕は開くと思っていなかったので今になって見ても良いのだろうかと不安になる。
しかし、ここまでくると離すことは出来ず、登録されている連絡先を調べた。
僕の心臓の音が鳴り出す。
それは“サキ”という名前があるかもしれないという緊張からではなく、連絡先に1人も名前がなかったからだ。
家族や友達、それに僕の名前もない。
スマホを2台もっているのだろうか。
そしたらこのスマホはいったいなんのための物なのだろうか。
このスマホに何かしらの情報はないのかと入っているアプリを片っ端に開いてみた。
しかし何も情報はなく、まるで新品のようだった。
「このスマホはいったい何のためなんだろう。」
そして僕は1つだけ開いてないものにふと気づいた。
僕はそのアプリを開ける。
するとそこには多くのものが詰み込まれてあった。
「このスマホは写真のためなのか。」
1枚1枚みていくとそこには彼女がいた。
ほとんどの写真に彼女が写っている。
そしてその写真はどれも楽しくピースなどをしている写真ではない。
そこにいたのは彼女の荒れ狂う姿だった。
だれからされているのか分からないが誰かに暴力を受けているような。
いや、これは暴力ではない。
芸術だ。
彼女の
僕は無意識のうちに欲情してしまっていた。
それは目の前にいる彼女にではなく写真の中にいる彼女に対してだった。
僕は抑えようとするがそれに反抗して僕の息はどんどん上がっていく。
目はずっとその写真に釘付けだった。
「我慢できない…」
僕は彼女のスマホの電源を切り、元あった場所にそっと戻してからトイレに駆け込んだ。
僕は1人でその行為をした。
そしてトイレに座りながらぼーとする。
「あれはなんだったんだろう。」
まだ、僕の心臓は興奮の余興を楽しんでいるようだ。
“美しい”その言葉でしか表せられないような何枚もあった彼女の写真。
僕の頭は今日見れた数枚の彼女の写真の細部まで記憶していた。
それを思い出すとまた、身体を硬直させられるような思いになり頭がぼーとする。
「涼、どこにいるの。もう夕方だしそろそろ帰るね。」
咲歩の声が聞こえた。
僕はあわててトイレを出た。
「ごめん、トイレにいたよ。そうだね。また、連絡するね。」
「えぇ。今日は寝てしまってごめんね。じゃあね。」
そういって咲歩は右手にスマホをもって家を出た。
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