第7章 僕と咲歩

僕と咲歩は遊園地に来ていた。

咲歩が教えてくれた小さな遊園地だ。

しかし、ジェットコースターはあるし、メリーゴーランドも昔の面影を残しつつもまだまだ衰えは感じさせないような元気ではつらつとした上下の動きを繰り返している。

「咲歩は何に乗りたい?」

咲歩はめずらしくふわふわとしたポンチョとスラっとしたズボンをはいていた。

いつもの派手な雰囲気も強い雰囲気は全くなく爽やかだ。

「じゃああのくるくる回るトンボに乗ろう。」

そう言う彼女についていき、トンボの上に人が乗って小さな円を描くその乗り物に乗った。

久しぶりに乗ったその乗り物は子供じみたものであるが僕の心臓はどきどきした。

乗り終えると少し頭がふらふらとした。

「涼、大丈夫?」

「あぁ大丈夫だよ。久しぶりにのるとこんなのでも怖いもんだね。」

僕は元気を奪われたかすかな声で笑った。

「私は全然大丈夫だったなー。私つよいのかも。」

そういって僕を軽くいじめながら咲歩は笑った。

そうやって僕を少し上からみるような性格は変わらないが前と比べるとずいぶんかわいいものになった。

女は恋をすると変わるというが咲歩も僕に恋という気持ちを持ってくれているのかなと思うと少し嬉しくなる。

「じゃあ次はこのシューティングゲームをしよう。これなら怖くないし負けないよ。」

「私だって負けないよ。」

そういってシューティングゲームができる建物に入ると、乗り物に乗せられ、その格闘機のようなごつごつとした乗り物が敵へと誘導してくれる。銃からでる光のビームが敵にあたるたびにピコン ピコンと音がなる。

そして僕たちは最後のボスを一緒に倒しゲームを終えた。



外に出ると風が僕たちを通り抜ける。

「結局負けちゃったな。咲歩は何をやっても強いんだな。」

「強くないよ。涼は弱いんだよ。」

そうこう話しながらパーク内を歩く。

「じゃあ咲歩そろそろ出ようか。」

「そうだね。」

そういって僕たちはパーク内を出た。

そうして僕たちは電車に乗り、家までの手前の駅で降りた。

ここで降りることは僕たちのいつもの習慣みたいなものになっていた。

そしてこの場所ですることは1つであり、愛の交わりであった。




「咲歩…こんな感じの関係でいいのかな。」

「それは罪悪感?」

「いいや、これは君がどう考えているかということだよ。」

「私は何も嫌だとは思ってないわ。だからこれでいいのよ。」

「そうか…じゃあ家に帰ろうか。」

「そうだね。」

僕たちはホテルを出て家へとむかった。



家に帰るとサキが待っている。

「サキ、ただいま。」

「おかえり。仕事お疲れ様。」

僕は仕事に行く時のカバンをおろし家へと入る。

「今日はカレーか。今回は普通のかい?」

僕は以前に食べたココナッツカレーでないことは匂いで分かっていたが冗談でそう言った。

「今回は普通の野菜カレーですよ。」

テーブルに乗せられたカレーを見るとナスがたくさん入っていた。

「サキはいつもひと手間かけるね。」

「そうした方が口の中が楽しいのよ。」

そう言ってサキはごはんの用意をしてくれた。

「あぁ、そういえば僕、汗をかいているから先にお風呂にはいるよ。」

そういって僕はお風呂に慌てて入る。

「カレーよそっちゃったじゃない。冷めちゃうよー。」

そんな声が聞こえるが僕はシャワーで聞こえないふりをした。

家とは違うシャンプーの匂い、そして彼女の匂い。僕でも気づくんだ。サキにもいつか気づかれるかもしれない。

僕は少し強めに身体を洗う。

そしてお風呂を出ると寝巻が用意されていた。さっきまで来ていた服は洗濯かごへと入れられていた。

「寝巻用意してくれてありがとう。」

ぼくはサキに聞こえるようにドア越しに少し大きな声で言う。

「いいえー、これからはきちんと用意してからお風呂に入るようにしてね。」

僕は寝巻を急いで着て、サキの元へと急いだ。

「カレーおいしそうだね。いただくよ。」

そういって僕はスプーンでカレーとごはんをすくい口に運ぶ。

カレーの香辛料がつくる深みのある味が口に広がる。

ナスの味が意外にもいいアクセントになっていてこういうカレーもたまにはいいなと感じる。

「カレー、おいしいよ。またナスカレー作ってよ。」

「今日は好評ね。じゃあまた、作るね。」

そういって疲れたのかサキは寝室に入っていった。

「おやすみ、サキ。」

「おやすみ、涼。」

僕は食べ終えたカレーの皿を洗い、食器が乾くまでの間、居間で1日の最後の休憩をした。

スマホをつけると咲歩から連絡がきていた。

“今日は楽しかったわ。また、会いましょうね。”

彼女らしい短調とした文だ。けれどもこの文の中にいろんな意味が込められているのだろう。

“こちらこそ楽しかったよ。またどこかへ行こう。”

そううちこみ電源を切った。

「そういえば最近サキとデートにいけていないな。今日いった遊園地にいくのもいいな。」

僕は床に乱雑に落とした今日持っていたかばんを拾い、そこからスケジュール帳を取りだす。

そうしてサキと都合が合いそうな日はないかと目で1日から順に予定を追っていく。

そしてサキをデートに誘う日を見つけた僕は急いで近くにあったボールペンを拾い強く星印をつけた。

「デートに行くの、楽しみだな。」

僕は知らぬ間に顔がにやついていた。

サキにこんな表情を見られていたらばかにされていただろうなと想像してしまいさらに口角が上がる。

僕はにやけるのを抑えるようと乾かしていた食器に近づき、キッチンにおいてあるタオルで拭いていく。

そして洗ったすべての食器を拭き、それをもって食器棚へと皿とスプーンそしてコップなどを決められた場所に並べていく。

コップを並べていると一つ取っ手の向きが違うものが少し奥にあった。

僕はその向きの違うコップに疑問を感じ手前から順に食器をとりだし、そのコップを手にした。

サキが好きそうなものではないが、使われた形跡はない可愛らしい花の模様があるコップだ。

“dear sakiho”

コップの下部にそう彫り込まれていた。

「咲歩と同じ名前だなんて、少しこわいな。」

そう思い僕は元にあった場所よりさらに棚の奥へとそのコップをしまった。

“さきほ”なんて友達はサキから聞いたことは今までで一度もない。

それによって増幅したこわさを僕は忘れることにした。

「明日は仕事だしそろそろ寝よう。」

僕は寝室の扉を静かに開ける。

サキは布団をかぶり、横を向いて寝ていた。

僕はその隣に入り込み、静かにサキの方を向き目を閉じた。



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