考察 1-6

「なんだ。本当に今日の僕は高揚しすぎだな。」そうため息をつくと後ろから肩を軽くたたかれた。

僕はカフェで起きるとは思わない、いつもと違う状況に驚きびくっと身体を震わせる。

後ろを振り向くとそこにはさっきの女…それはサキだった。

「あぁサキか。いつもと恰好も髪も違うじゃないか。どうしたんだ。」

僕は驚きを隠しながら流暢に話す。

「旅行のときについでにイメチェンをしたのよ。」

サキの長い髪は肩ぐらいまでの長さになっていたし。服もいつもは着ないような柄のある少し派手目な装いになっていた。

「なんだか別人みたいだよ。君が気にいっているのならなにも言わないけどね。」

「なんだか褒められる服装じゃないって言われているようね。」

サキはむすっとした顔をした。

「そういえばサキはなぜここにいるんだい。この喫茶店に1人で来るなんてめずらしいじゃないか。」

「涼がなかなかメールに返事をしないからじゃない。家にはいなかったからここかなって来てみたのよ。」

そういえば僕は達也に会った日もサキからもらった写真を見ることはしたが返事をしていなかったことに今更ながらに気づく。

スマホを取り出し、サキからの連絡をみると今日でも5件の連絡が来ていた。

「スマホは見ていたのになぜだか気づけなかったな。本当にごめん。」

僕はなぜ気づかなかったのか不思議に思った。

サキが今日帰ってくると知っていたら咲歩を誘うことはなかった。

…あぁ、僕はサキとの会話で少しの間忘れていた咲歩と会う約束を思い出す。

意外にもあせる気持ちにはならなかったがそれでもサキと会わすわけにはいかないという気持ちはあり、どうすればサキをこのまま家にかえすことができるかと考えた。

「サキ、僕は今仕事の人とここで会う約束をしているんだ。鉢合わせるとそれはそれで面倒だと思うしまた家でじっくり話そう。」

「涼、仕事決まったの?おめでとう。どうして早く言ってくれなかったの。私、とても嬉しいよ。」

サキはそのまま僕にいろいろと話しを聞いてくる。

理由が悪かったと思い後悔をするがそう思っても仕方がない。

ふと向かいの窓をみると咲歩が歩いてこちらに向かって来ているのが見えた。

「サキ、だから今は家で待っていてくれないかな。きっと早く帰ってくるから待っていて。」

「そんなに急いで帰ってこなくても大丈夫よ。飲み会とかがあったらいってきてもいいからね。」

そういってサキは喫茶店をでていった。

そして待っていたかのようにサキが出て数秒たった後に咲歩が入ってきた。

「カフェラテを一つお願いします。」

そうおじさんに言い、彼女は僕の前の席に座った。

「待っていてくれたのかい。」

「いいえ、入ると面倒になりそうだから少し外で立っていただけよ。」

そういって彼女は僕の目をまっすぐみた。

「君は本当に何を考えているのか分からないね。」

「誉め言葉をありがとう。」

そう言って彼女は微笑んだ。

「今日呼んだのは君ときちんと接したいと感じたからなんだ。」

「今まではきちんと接していなかったのかしら。」

僕は言葉を詰まらせかけたが思っていたことを素直に吐いた。

「そうだと思う。僕には彼女がいるから、という壁があったんだ。本当に申し訳ないよ。許してはもらえないかな。」

彼女は右斜めに目線を動かし少しのを開ける。

「いいえ、話をすすめて。」

「ありがとう。だから僕はこれから君としっかり向き合っていきたい。“彼女”ということはまだ分からないけれどそれでも君とは離れたくないんだ。勝手な話でごめん。決めるのは君だから断ってくれてもいいんだ。」

僕は最初こそ自信と高揚にあふれていたけれど彼女は普通の女の子なんだと徐々に感じ、話していくごとに嫌われていくように感じた。もしかしたらもう会えないのかもしれない。そんな不安を感じながら彼女からの回答を待つ。

彼女はカフェラテを啜っている。

僕はただ彼女の回答をじっと待った。

そして無言の時間が流れ、彼女は僕の顔を見た。

そして彼女の口が開く。

「いいわよ。君と“彼女”でなくても付き合ってあげる。でもね、ひとつ質問していい。」

「もちろんいいよ。」

「涼は彼女がいるのに私と付き合って本当に罪悪感なく過ごすことができるの。私には罪悪感はないけれど君があればこの付き合いはとても意味のないものよ。」

彼女は真剣な眼差しで僕を見る。

「あぁ、罪悪感なんてないさ。だって僕は今、君に罪悪感なしに会っているしそうすることがとても気持ちがいいんだよ。」

そうして僕たちは付き合うことになった。

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