考察 1-5

僕は首の痛さに身体が悲鳴を上げ、起こされた。

イスの上で寝てしまっていたようだ。

今日が最後の休みになるかと思うとなんだか朝にも関わらずやるせない気持ちになった。

明日には仕事が始まる。

どうなることかなと少し口元がにやける。

そして僕は昨日飲もうとしていたインスタントのコーンスープと電子レンジの上にとりあえず載せられたような麻紐の食品かごにあった1枚だけの食パン、それにバターをテーブルに用意し、朝ごはんを食べた。

少し乾燥したその食パンはコーンスープと一緒に摂るとそれほど嫌とも感じなかった。

そうしてごはんを食べた僕は時間を持て余した。

何もしない訳にもいかないので僕は小説を読むことにした。

カフェに行ったときによく読む本で、本の側面には所々にコーヒーの“しみ”が付いていた。

僕はエンジェルの栞を抜き取り最後に読んだ場所からまた読み進める。


A「言葉とは気持ちを表すのか。」

C「そうですね。」

A「では表情は気持ちを表すのか。」

C「そうですね。」

A「では、言葉も表情も人の“気持ち”を表すということだが私達はどちらを信じればよいのだね。」

C「それはどちらも均一に、でしょう。」

A「では君は僕が今どういう気持ちなのか分かるのかい?私は言葉と表情を持っているから君は私の気持ちを分かるのではないか。」

C「それはだいたいでしか出来ません。」

A「では、“言葉”と“表情”だけでは“気持ち”は分からないということだね。」

C「そうですね。」


僕はなんだか変わった論題だなと思いながらもそのまま読み進めていった。

その後も小説の中は哲学的な論題が次々と出され、なんとなく解決したようなしていないような曖昧の中で終わりに向かう。

「考えたことのないことに出会えて実に有意義な時間を過ごしたな。」

そうして、満足感を得た僕は同時にすることがなくなっていることに気づく。

寝室にある時計を居間から遠目で見ると時間はまだ15時であった。

そうだな、そうだなと何をするか頭を悩ませる。

そして僕はとりあえず外に出てみることにした。

外に出るとまだ学生がいる学校は授業中であるので歩いているのは年寄りか主婦かのどちらかがほとんどであった。

そして僕はそんなのんびりとした世界を見て、ふと“会いたいと思う人に会うことが生きることなのでは”と感じた。

この目の前に広がる世界はきっと何をしても変わらずあるのだと何故だか感じたからだ。

何にも気を遣う必要はないのだ。

そして僕は咲歩をいつもの喫茶店に呼び出した。

断られるかとも思ったが特に何も言われず了承をもらった。

僕は急いで待ち合わせをしている喫茶店に向かう。

「今日もいつものでいいかい。」

カフェにはいるといつものおじさんがいた。

「いや、今日はアメリカンを頼むよ。」

そうして僕はおじさんに勧められた席に座る。

先ほどとは違い期待が募っていた。

どこから生まれた期待なのか分からないがこの世界についての謎が一つ、解明したように感じ気分が高揚しているのかもしれない。

哲学の本を読んだことによるものなのだろうか。

そして、何よりも咲歩に会うことに以前は胸の中にもやもやしたものがあったが今日は何も感じずただ会いたいということだけの気持ちで会えることがとても嬉しい。

僕はその高揚のままいつもは頼まないアメリカンを啜った。

そして扉の方からチャリンと鈴の音がする。

僕は咲歩だと思い振り返る。

しかし、服と髪の長さから違うことが分かった。

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