考察 1-3
中に入ると薄暗く、緊張によって心臓の音が歩くごとに大きくなっていく。
そして中にいたバーテンダーのような黒い恰好の、なにやら不気味な男の言われるまま指示に従い手順を踏んでいく。
少しの間、部屋で待つようにと言われた。
よく分からないだけにいまいち乗り気にはなれない。小さな部屋でこれから起こることを考えると余計複雑な気持ちになる。
「あぁ早く達也の所に帰りたいな。店員にほとんどお任せしたけどどんな女の人が来るんだろ。」
僕は就職の面接以上に緊張していた。
そうして突然、目の前の扉がガチャリと開いた。
「こんばんは涼さん。こんな所で会うなんて意外ね。」
そこに現れたのは咲歩だった。
服装は彼女が着そうな少し奇抜なものであるがしかし普段着ているようなものではなく、明らかにいつもより肌が見える。
「おい、どうしてこんな所にいるんだよ。」
「それはお金に困ってるからっていうのが大半なんじゃないかな。バイトとか正社員とかのんびり稼ぐようなものじゃなくてね。」
「借金でもしてるのかい。」
「いや、私の話ではなくてここで働いている人の主な理由よ。」
「自分の話はなぜしてくれない。」
「それは、話しても意味がないように感じるからかな。」
そして彼女はせっせとなにやら仕度を始めた。
「それはいつもの準備みたいなものかい。」
「そうね、安心するときだけする準備かしらね。」
「君は僕とすることになっても動揺しないわけだ。」
「動揺は隠すものよ。」
そう言うとその後は流れるように時間は過ぎてゆき、僕と彼女の身体も時間の流れとともに密接していった。そしてとうとう僕はサキのことを一度も思い出すことはなく、ただ彼女の中に溶け込んでいった。
そして終わるとすぐに咲歩は扉を開けて帰っていった。
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