第4章 違和感
僕は薬局に行った後そのまま
また、ぶらぶらと特に何をするということもなしにただ時間を過ごした。
そしていつのまにか仕事も終わり。
駅からの家路を歩いていた。
今日はなんだかいつもより疲れたな。早くサキにあいたい。そして美味しいサキのつくった手料理を食べるんだ。僕の足は自然とはやくなっていた。はやく帰りたい。はやく帰りたい。と頭で幾度と刻みながら。
僕はふと前方を歩く男女2人に気づいた。カップルだろうか、手を繋ぎ歩いている。
僕はなんだか嫌な予感がしていた。
どんどんと距離が縮まる。なぜこの2人は歩くのが遅いんだ。そう思いながらも僕は歩く速さを変えなかった。そしてとうとうすれ違おうという所でその男女の顔を見た。
嫌な予感というものはだいたいなぜか当たるものである。
男の方は見たこともない顔だが女の方は見たことがあった。
今日、カフェであったあの女だ。
あっ、とつい声がでてしまった。
男の方はじろっと僕の方を見た。
女の方は、男がこっちを見ているからか最初は驚いた様子だったがその後あざ笑うかのような笑みを浮かべた。
僕は目線を前に向け、前に向かって歩いた。
なんで僕はそのままあの2人を通り過ぎなかったんだ。いちいち確認する必要なんてなかったじゃないか。
僕ははやる気持ちを抑えながら先ほどよりもより足早に歩いた。
「なぜ、そんなに動揺しているの。
私が他の男といたのが嫌だった?」
僕は後ろから聞こえる声のためにゆっくりと歩いた。
「私はこの男の人が気になるわ。だから行動を共にしているのよ。
だから…これだけは覚えておいて。あなたは名前も知らない、ただ"あなたのことが気になる女性"のことを覚えていた。そのことを頭に入れておいてね。」
そう言ってその声は止んだ。
僕はあの女がいったい何を言いたいのかまた、理解できなかった。
ただ一つ理解したのは、僕があの名前も知らないただ"僕のことが気になるらしい女"の顔や声を意外にも覚えていたことだった。
そしてやっと家についた。
手すりや踏面が鉄でできたサビだらけの汚い階段を一段一段、コンコンと音を響かせながら上がり2階に着く。203号室。鍵を胸ポケットからだしドアを開ける。いつもと違う香りがした。
「ただいま、サキ」
キッチンへの扉からサキが出てきた。
「おかえり。もうご飯できてるよ。」
そういってまたキッチンに戻っていった。
僕は靴を脱ぎ、キッチンの隣にあるテーブルへと向かった。
「今日は少し違うのを作ろうと思ってココナッツをつかってみたの。」
テーブルに並んでいたのは変わった色のしたカレーだった。
「ココナッツのカレーなんて食べたことあるのかい?独特な味だよね。」
僕はココナッツが嫌いなので顔が少しひきつってしまった。
「ないけど違う世界の食べ物を食べるのもいいなと思って。とりあえず食べてみようよ。」
サキはなんだか楽しそうである。
僕はとぼとぼと席についた。
サキは早く食べたいというように座って待っている。
「じゃあ、いただきます。」
サキは僕に続きいただきますと言ってスプーンでご飯とルーをそれぞれ半分になるようすくい、口の中に入れる。
「なにこれ、なんか美味しくない。
なんだろ。分からないけど独特だね。」
サキは苦笑いを浮かべ少しずつカレーを食べた。
僕も苦笑いを浮かべカレーを食べた。
ココナッツのカレーの香りが漂う中、僕とサキは就寝までの準備をしてから眠りについた。
僕はサキのことを考えていた。
隣にいる女性のことを目を瞑り、考えているとは実に不思議なことである。
サキは僕にとって大切な人間だ。
だが大切だからといって自分の人生を壊したり、他人の人生に迷惑をかけることは良くない。
良くない。この判断はいったい誰がしているのだ。
僕はいったい誰に言われてこの判断を守っているのだろうか。
実に論題がでているようで何も出ていない無駄な考察だが僕はこの何もない論題について頭を悩ませた。
ただ一つ言えることは今まで感じなかったことを感じるようになった。
それだけは確実なものとして僕の中に存在しているように感じた。
僕はいつのまにか眠りについていて目を開けると太陽が照りつけていた。
布団の上で窓の方に寝返りをうち外を眺める。
そこにはなにもない。
ただ窓から照りつける光があるだけだ。
僕はただ光をみていた。
僕はなにかのスイッチが入った気がした。
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