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「うん。わかった。よく、ちゃんと私に真実を話してくれたね。ありがとう。吉木くん」と笑顔で鞠は言った。
「先輩。僕のこと、嫌いになりましたか?」心配そうな顔で、透は言う。
「嫌い? 私が? 吉木くんのことを?」鞠は言う。
「はい」透は言う。
「ふふ。全然。嫌いになってないよ。だって、吉木くんの言っていることは、全部本当のことだもん」鞠は言う。
その言葉通り、鞠は全然透のことを卑怯者だとは思っていなかった。(ただ、あまりにも弱々しい透が可愛かったから、嫌いになった、と少し意地悪で言ってみようかとちょっとだけ思ったりもした)
むしろ、透が自分を元気付けるために、ずっと秘めていた思いをきちんと私に告白してくれたことが、すごく嬉しかった。(それに、なんで急に透が私に告白をしてきたのか、少し疑問だったのだけど、その謎も解けた)
「吉木くんはなにも悪くないよ。もちろん、全然卑怯でもない」
鞠は言った。(だって、恋愛はいつでも真剣勝負だから)
そう。全部本当のことなのだ。
吉木くんはなにも悪くない。
悪いのは、きっと私。
ずっと、立ち止まっていた、……いつの間にか、そのせいで、いろんな人に随分と心配をかけてしまっていた、三雲鞠。……つまり、私自身なんだから。
「よし。『透くん』」
鞠は言った。
「……え? は、はい!」と、いきなり『透、と自分の名前』で呼ばれて、思わず透は少しだけ驚いた顔をした。
「私と競争しよっか? あの十字路のところまで」
そう言って鞠は、二人の歩いている少し先にある、田んぼの真ん中の十字路のあぜ道の中心を指差した。
「え?」
「負けたら、そうだな? ……今度、二つ橋でジュースとアイス、おごりね。じゃあ、そういうことで、よーい、スタート!」
そう言って鞠はいきなり、土色の道の上を(結構、本気で)走り出した。
「え? あ、あの、先輩!! 待ってください!」
突然のことに出遅れた透が、少し後ろで鞠に言った。
「それから、もし私に勝ったら、私のこと先輩じゃなくて、『鞠』って、名前で呼んでもいいよ!!」
ようやく鞠のあとを追って、走り出した透に向かって、鞠は後ろを振り返りながら、本当に楽しそうな笑顔で、にっこりと笑って、透に言った。
その競争には、透が勝った。(誓って言うが、手抜きはしていない。不正はない)
だからそれから、透は鞠のことを、先輩、や、三雲先輩、ではなくて、ちゃんと鞠、と、(誰もいないところでは)名前で呼んでくれるようになった。
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