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「はい。そうです」透は言う。

「どのあたりが?」

「……『僕、三雲先輩が失恋したってこと、……音楽部のみんなの噂で知って、……それで、今がチャンスだと思って、三雲先輩に告白をしようと思った』んです」と透は言った。

 その透の言葉を聞いて、鞠は驚いた。

 音楽部のみんなが、影でそれらしい話をしていることは(みんな悪気があるわけじゃない。ただ、どうしても学校とか、部活とか、そう言った小さな世界や共同体の中では、そういうことが噂になってしまうのだ)、なんとなく知ってはいたのだけど、……まさか、真面目な、そういう話とはあまり縁がない、吉木くんにまでその噂話が伝わっていたのか……、と、ちょっとだけ鞠はショックを受けた。 

「僕は三雲先輩の失恋に気がついていた。先輩が傷ついてるのを知っていて、そこにつけ込んで告白をしたんです」

 鞠は黙って、透の話を聞いている。

「……先輩が音楽室の中で、一人で泣いているところを目撃したこともあります」確かに鞠は音楽室で一人で泣いていたことがあった。……見られていたのか。恥ずかしい。

「僕がその噂を聞いたのが、今年の初めごろの話です。その少し前から、ずっと、三雲先輩は元気が無くて、ずっと気分が沈んでいたから、僕は三雲先輩に昔みたいに元気になって欲しいって思ったんです」

 鞠は透の言葉にずっと耳を注意深く、傾けている。

「もちろん、卑怯だとは思ったんです。こういうときに、自分の気持ちを告白するのは、ずるい行為だと知っていたんです。でも、それでも僕は、三雲先輩に元気でいて欲しかったんです。僕は三雲先輩にはいつもみたいに、『ずっと明るく笑っていて欲しかった』んです」と、鞠の目を見て、透は言った。

「僕が、大橋先輩の代わりに、三雲先輩を幸せにするって、そう本気で思ったんです」

 そこまで言ったところで、透の言葉は一度、止まった。


「……そっか。知ってたんだね」

 そのタイミングで鞠は言う。

「本当に申し訳ありませんでした。先輩」

 透はそう言って、鞠に深々と頭を下げた。「あ、頭上げてよ、吉木くん」慌てて鞠がそう言った。

 透が頭をあげると、その目は少し涙で潤んでいた。どうやら透は少しだけ、涙ぐんでいるようだった。

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