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「ごめん。ごめんなさい。鞠っ……。ごめんね」と大きな木のところで南は言った。
だけど鞠には、なぜ南が泣いているのか、その理由がよくわからなかった。
「ごめんなさいって、別に南はなにも悪いことしてないよ」
鞠は言った。
「ごめん。鞠。……『大橋くんのこと、本当にごめんなさい』」と泣きながら南は言った。
その南の言葉を聞いて、ようやく鞠は、あ、南が泣いているのは、私が大橋くんを好きなことを知っていて、そのことで二人で話をしたという経緯があったとしても、大橋くんと自分が付き合うことになった結果について、(それが正当な勝負の結果であり、そして、そのせいで、敗者となった私(鞠)が、ずっと気持ちが沈んでいたことについて)責任、あるいは罪の意識を感じていたから、なのだと鞠は理解した。
「南」
鞠は言った。
「……鞠。ごめんなさい」南は言った。
鞠はなんだか、ずっと泣いている自分の親友のことを抱きしめてあげたくて仕方がなくなった。
そして鞠はその自分の気持ちに正直になって、南のことを、ぎゅっと、優しく抱きしめた。
南はずっと、震えていた。
泣きながら、鞠の腕の中で、南はずっと震えていたのだ。
「鞠」
南は言った。
「ありがとう。南。……それと、私のほうこそ、ごめんなさい」
鞠は涙を流しながらそう言った。
いつの間にか、鞠も南と同じように、その目から綺麗な涙を流していた。こんなにも優しい自分の親友が、私がずっと元気がなかったことについて、こんなにも深く心を傷つけていたのかと思うと、申し訳ない気持ちで心の中がいっぱいになった。
「……鞠。私のこと、許してくれるの?」
南は言った。
「もちろん。許すよ。全部許す」鞠は言った。
「だって南はなにも悪くないから。悪いのは私だよ。全部私が悪いの」と泣きながら、鞠は言った。
「……そんなことないよ。……悪いのは私だよ」と南は言った。
「じゃあさ、私たち、二人とも、どちらも悪かったってことで、おあいこだね」と鞠は言った。
南は「そんなことないよ。ごめんね、鞠」と鞠の腕の中で、顔を左右に動かしながら、小さな声でそう言った。
「泣かないで。南。南が泣いていると、私、……私は……」
そこで鞠は言葉を失った。
それから鞠はなにも言わずに、大切な親友を抱きしめながら、その場で泣いた。南が泣き止むまでの間、鞠はずっと、ずっと、自分も泣きなら、そうしていた。
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