29
鞠たち四人は二つ橋のお店の横にある飲食のできるコーナー(と言ってもテーブルと椅子と自動販売機があるだけの場所だけど)に、二つ橋の店内でソーダ水とアイスクリームを買ってから移動した。
そこで、木製のおんぼろなテーブルを挟んで、二組に分かれたところで、鞠は最初に「実は、私、今、ここにいる吉木透くんと夏ごろからお付き合いをしているんだ」と南と大橋くんに向かって、そう告白をした。
いつかは南に(それも遠くない未来に)報告するつもりだったし、透の言う通り、まあ、いい機会かな? と思ったのだ。
すると「え!? 本当!!」と予想以上に二人は二人とも驚いた顔をした。その二人の大きなリアクションと、それから、なんだかこうしてみるとよく似ている(リアクションの取りかたも、言葉も、その声の出すタイミングもばっちりだった)南と大橋くんの二人の姿を見て、ああ、やっぱり二人はお似合いの恋人同士なんだな、と改めて鞠は思った。
「本当に吉木くん!?」
南の言葉に「……はい。本当です」と言って、透は恥ずかしそうに顔を赤くした。
「そうなんだ。いや、ごめん。すごく驚いた」と大橋くんは笑顔で言った。
「ごめんなさい。驚かすつもりはなかったんだけど、最初に言っておいたほうが、いろいろと面倒がないかなって思って」と大橋くんの顔を正面から見つめながら、鞠は言った。
鞠は本当に、『ただそう思って』、自分たちのことを二人に報告した。
むしろ、南だけではなくて、大橋くんに自分の口から、吉木透くんとお付き合いをしています、と言えたのは、本当に幸運なことであり、また自分の成長も感じられたことだと鞠は思った。
なんだか自分が少しだけ、今までの自分よりも大人に慣れたような気がした。
だから、それから鞠は会話の中心を大橋くんや、南、それに透の初対面の三人に譲ろうと思っていた。
でも、それからすぐに、「……うっ」と言って、南が下を向いて、顔を伏せるようにして、泣き始めてしまった。
「え? 南? どうしたの?」と驚いて鞠は言った。
「……なんでもないの。ごめんなさい」と泣きながら、南は言った。
でも、どう見ても『なんでもない』ということはなかった。
「南。大丈夫?」
そんな隣に座っている大橋くんの優しい言葉にも、南はただ、小さく顔を横に動かすだけだった。
南の綺麗なポニーテールが、その顔の動きに合わせて左右に揺れた。
南は「……うっ、うっ、」と言って、泣き出して、それから、その涙と泣き声は、次第に最初のころよりもだんだんと大きくなっていった。
鞠は席を立つと、南の横に移動して、「南。向こうに行こう」と言って、泣いている南の手をとって、南を二つ橋の敷地の隅っこにある大きな木のある場所に向かって、促した。
すると南は顔を縦に動かして、「……うん」と小さく言ってから、鞠と一緒にその大きな木のあるところまで移動した。
その際に「少し南と二人でお話ししてくる。ちょっとここで待ってて」と鞠は大橋くんと透に言った。
二人は、
「わかった」
「わかりました」と、それぞれ真剣な表情で鞠に言った。
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