31 明日、天気は晴れるかな?

 明日、天気は晴れるかな?


 将来、私たちがどうなるかなんてさ、……誰にも、わかんないんだよ。きっとね。


 南はとても長い間、泣き続けた。

 でも、その涙も、やがて、枯れて、南はきちんと泣き止んだ。……すると、南は小さな子供のように顔を真っ赤にして、「……ごめん。鞠。もう大丈夫だよ」と、照れくさそうにして、下を向いてそう言った。

「……南。私、本当に気にしてないよ。大橋くんのこと。もう大丈夫になったの。本当だよ。嘘じゃないよ」

 にっこりと笑って、自分の目元を指先でぬぐいながら、鞠は言った。

「……吉木くんのおかげで?」上目遣いで南は言う。

(南の目は両方ともうさぎのように真っ赤だった。きっと私の目もそうなっているのだろう、とその目を見て、鞠は思った)

「そうだよ。私たち、今、すっごく幸せなんだ」と鞠は言った。

 すると、ようやく南は鞠の顔を正面から見て、にっこりと笑ってくれた。南が笑ってくれたことが、鞠は嬉しくて、嬉しくて仕方がなかった。

「ありがとう。南」鞠は言った。

「なんのありがとう?」南は言う。

「私のために、泣いてくれたこと。……私、すごく嬉しかった」と鞠は言った。それは本当の鞠の気持ちだった。鞠は可能であれば、南の頬にキスしたいくらいに、南の気持ちが嬉しかった。


 それから二人は手をつないで男性陣のいる二つ橋の飲食コーナーに戻った。

「ただいま」鞠が言った。

「おかえりなさい」と透が言った。

 南はなにも言わずに、自分の恋人である大橋綾くんのところに移動した。そこで二人は小さな声で会話をしている。

「……大丈夫?」とか、「……うん。もう平気」と言った声が、かすかに鞠の耳に聞こえてきた。

 それから大橋くんが「こちらから誘っておいてなんだけど、今日はもう解散ってことでいいかな?」と鞠と透にそう言った。

 南は大橋くんの背中に隠れるようにして、立っていた。(きっとまだ、泣きじゃくってしまった、恥ずかしさでいっぱいなのだろう)

「私は別にいいよ」鞠は言った。

「僕もいいです。最初の目的通り、『大橋先輩とたくさん、いろんな大切な話』もできましたから」と大橋くんの目を見て透は言った。

 その透の言葉を聞いて、大橋くんはにやっと笑うと、「顔に似合わずに、なかなか生意気な後輩だね。君は」となんだか嬉しそうな声でそう言った。


「じゃあ、そういうことで。三雲さん。吉木くん。またあとで」

「……鞠。吉木くん。今日はごめんなさい。またね」

 と言って、小舟南と大橋綾は、二人で一緒に夕焼けに染まる田舎の街の風景の中に、歩いて行って、やがて、鞠と透の視界の中から消えてしまった。(その間、二人はずっとお互いの手をしっかりと握っていた)

 そして、二つ橋には鞠と透の二人だけが、残っていた。

「大橋くんとどんな話をしたの? 大切な話って言っていたけど」と鞠は言った。

「秘密です」透は言う。

「秘密?」

「はい。男同士の秘密です。大橋先輩とそう約束したんです」とにっこりと笑って、透は言った。

 透のその言葉を聞いて、確かに大橋くんの言う通り、『吉木透は顔に似合わずに、なかなか生意気な後輩である』、と三雲鞠はそう思った。

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