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「吉木透くん。私と、お付き合いをしてください」
しっかりとした口調で、まっすぐ吉木くんの目を正面から見つめながら、三雲鞠は、そう言った。
「……はい。これから、よろしくお願いします」
じっと鞠の目を見つめ返しながら、吉木透はそう鞠に返事をした。
こうして、(いろいろとあったけど)三雲鞠と吉木透は、正式に恋人同士として、お付き合いをすることになった。
どーん、と遠くでまた花火が上がった。
その帰り道、二人が手をつないで、花火を見物していた神社の境内から出て行こうとすると、近くで「にゃー」と言う小さな猫の声が聞こえた。
二人は目を合わせて、それからその辺りの草むらを捜索してみると、そこには一匹のダンボール箱の中に入れられて、捨てられている子猫がいた。
額のところに三本の線の入った昆布茶色をした子猫だった。
子猫は自分を見つけてくれた鞠と透の顔を見て、また愛くるしい声で「にゃー」と鳴いた。
「どうします? 先輩」透が言った。
「拾っていく」
と、透を見て、にっこりと笑って鞠は答えた。
その言葉通りに、鞠はその子猫を拾って家に帰った。
三雲家では、去年の暮れに、ずっと飼っていた愛犬(柴犬だ)のはちが亡くなっていた。
はちは鞠の子供のころから三雲の家にいる三雲家の大事な家族の一人だった。
はちは高齢で、それは長寿をまっとうした死だったのだけど、それでも、やっぱり、(そろそろ危ないと獣医さんから言われていた)悲しくて、悲しくて、鞠はずっと、ずっと、まるではちと初めて出会った子供のころのように、もう動かなくなってしまったはちの体を抱きしめながら声を出して、泣き続けてしまった。
鞠のお父さんもお母さんも泣いていた。
はちは三雲家の家族だった。
家族が亡くなったら、いなくなってしまったら、それはすごく悲しいことなのだ。
そんな当たり前のことを、なるべく思い出さないようにしていた感情を、このとき鞠は久しぶりに思い出した。
「はち。ご苦労様」
はちの亡骸に向かって鞠は言った。
「天国にいるおじいちゃんとおばあちゃんによろしくね」
鞠は言った。
その数日後。
はちのお葬式を家族でやったあとで、鞠は思った。
……たとえ、どんなに長生きしても、きっと自分が誰かの死になれることなんて、一生ないのだろう、……と、そんなことを三雲鞠はこのとき、本当に強く、そう思った。
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