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「先輩」吉木透は真面目な顔をしている。
その少し緊張している透の顔を見て、鞠は吉木くんは可愛いな、と思う。
「吉木くんが私に好きだって言ってくれたから、私の音楽が好きだって、そう私に言ってくれたから、私は、今も音楽が大好きなんだって、そう思うことができたんだよ」
鞠は言う。
どーん、と遠くで花火の上がる音が聞こえて、世界が一瞬だけ、明るくなった。
「三雲先輩」透が言う。
「なに?」
その言葉に鞠は答える。
「僕は三雲先輩のことが好きです」鞠の目を正面から見て、透は言う。
「……うん。知ってる」
にっこりと笑って鞠は言う。
吉木透の告白を聞くのは、六月の梅雨の時期以来、二回目のことだった。
「先輩。……僕と」
その透の言葉を鞠は「待って」と言葉を言って、強引に止めた。
透は不満そうな顔をする。
なかなか生意気な顔だ。
「今度は私から、言わせてください」鞠は言う。
「え?」
透は言う。
それから、透は鞠がなにを自分に言おうとしているのか、なにを自分に伝えようとしているのか、そのことに気がついて、また、いつもの真面目な表情になって、鞠をじっと見つめた。
「吉木透くん」
「はい」
鞠は透の顔をじっと見つめる。
吉木透くん。
ずっと、私を好きだと思ってくれていた人。
私の音楽を誰よりも認めてくれた人。
いつの間にか、私の一番の心の支えになってくれていた人。
いろんな思いが鞠の頭の中を駆け巡っている。
七月の終わりに終業式を迎えて、一学期が終わって、夏休みに入ってから、ずっと、このタイミングで、吉木透くんに、今度は自分から、告白をしようと、鞠は決めていたのだけど、やっぱり実際に、その場面になってみると、(想像で練習はいっぱいしたのだけど)なんだか恥ずかしくて仕方がなかった。
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