24

「先輩」吉木透は真面目な顔をしている。

 その少し緊張している透の顔を見て、鞠は吉木くんは可愛いな、と思う。

「吉木くんが私に好きだって言ってくれたから、私の音楽が好きだって、そう私に言ってくれたから、私は、今も音楽が大好きなんだって、そう思うことができたんだよ」

 鞠は言う。

 どーん、と遠くで花火の上がる音が聞こえて、世界が一瞬だけ、明るくなった。

「三雲先輩」透が言う。

「なに?」

 その言葉に鞠は答える。

「僕は三雲先輩のことが好きです」鞠の目を正面から見て、透は言う。

「……うん。知ってる」

 にっこりと笑って鞠は言う。


 吉木透の告白を聞くのは、六月の梅雨の時期以来、二回目のことだった。

「先輩。……僕と」

 その透の言葉を鞠は「待って」と言葉を言って、強引に止めた。

 透は不満そうな顔をする。

 なかなか生意気な顔だ。

「今度は私から、言わせてください」鞠は言う。

「え?」

 透は言う。

 それから、透は鞠がなにを自分に言おうとしているのか、なにを自分に伝えようとしているのか、そのことに気がついて、また、いつもの真面目な表情になって、鞠をじっと見つめた。


「吉木透くん」

「はい」

 鞠は透の顔をじっと見つめる。

 吉木透くん。

 ずっと、私を好きだと思ってくれていた人。

 私の音楽を誰よりも認めてくれた人。

 いつの間にか、私の一番の心の支えになってくれていた人。


 いろんな思いが鞠の頭の中を駆け巡っている。

 七月の終わりに終業式を迎えて、一学期が終わって、夏休みに入ってから、ずっと、このタイミングで、吉木透くんに、今度は自分から、告白をしようと、鞠は決めていたのだけど、やっぱり実際に、その場面になってみると、(想像で練習はいっぱいしたのだけど)なんだか恥ずかしくて仕方がなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る