23 夏と、縁結びの猫 おーい、こっちだよ。
夏と、縁結びの猫
おーい、こっちだよ。
季節は夏。時期は八月。
鞠たちの通う三津坂西中学校は夏休みになった。
そんな夏休みのある日の、鞠の住んでいる山奥の田舎の街の花火大会のある、夏のお祭りの日。
三雲鞠は吉木透と二人だけで、その街のお祭りに出かけた。
「ベートベンは耳が聞こえなくなっても、ピアノを続けたんですよね?」と藍色の浴衣姿の透は言った。
「急にどうしたの?」
同じように桃色の浴衣を着て、手に白いうちわを持っている鞠が言った。
夜空には無数の花火が打ち上がっている。
遠くでは誰かが「……たーまやー」と声を出している音が聞こえた。
街にある神社の中の少し小高い丘の上。
そこにある小さな公園の中にあるベンチに二人は並んで座っている。
月明かりが綺麗な、たくさんの星が見える夜。
……恋人たちが愛を語らうには、絶好の夜だった。
「嬉しんです。先輩が音楽を続けてくることが」
隣にいる鞠を見て、にっこりと笑って、透は言う。
「……うん。ありがとう」
にっこりと笑って、少し頬を赤く染めながら、鞠は言う。
「吉木くんのおかげだね」ベンチから立ち上がって鞠が言う。
「え!? 僕、ですか?」
透は鞠を見ながら、不思議そうな顔をする。
「そうだよ。本当にそう。……私は、三雲鞠は、吉木透くんのおかげで、……吉木くんに勇気をもらって、今の選択ができました」と鞠は透にそう言った。
「どうも、ありがとうございました」
それから鞠は、そっとその頭を透に下げた。
「いや、僕はなにもしてませんよ!」
慌ててベンチの上から立ち上がって、両手のひらを振りながら、透は言う。
「ううん。そんなことない」頭をあげて、鞠は言う。
「私は吉木くんに勇気をもらった。だから、諦めようとしてた夢を追いかけようって、思うことができたんだよ」
鞠は透のすぐ目の前まで移動する。
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