17 お願いします。私を助けてください。

 お願いします。私を助けてください。


 土手の上を走っているとき、なぜか透はずっと笑顔のままだった。それも、なんだか、いろんなことを吹っ切ったような、(それは鞠がそうしたいと思っているような、そんな)……すごくいい笑顔だった。

 そんな透の、でも、やっぱりちょっと子供っぽい、無邪気な笑顔を見て、自然と鞠もずっと、笑顔のままになった。


 鞠と透は、そのまま大きな川沿いの土手の上を走って、その先の、大きな橋のあるところまで走ったまま移動をした。

 ……その間、ふと鞠が、はぁ、はぁ、と息を切らせたままで、川の向こう側に目を向けると、……すると、川の向こう側の土手の上をを歩いていた南と大橋くんが、ふと、川のこちら側の土手の上を手をつないで一緒に走っている、鞠と透のほうに、その目を向けたような気がした。

 鞠はその二人の姿をじっと見つめた。

 ……二人の表情は、赤い夕日に照らされていて、鞠には、今、二人がどんな顔をしているのか、よく見えなかった。


 吉木透は大きな橋のところまでくると、ようやくその足を止めて、はぁ、はぁ、と肩で息をしながら、中腰の姿勢になって、その荒い呼吸を整えた。

 三雲鞠も同じように、しばらくの間、土手の道の端っこにある芝生の上に座り込んで(本当は座りたくなかったのだけど、体力の限界だった)、その荒い呼吸を整えた。

「……ふふ。吉木くん。体力ないね」

 しばらくして、にっこりと笑って鞠が言った。

 鞠はその全身に汗をびっしょりとかいていた。

 すると、透はそんな鞠を見て、にっこりと笑って見せた。

「先輩こそ。へばってますよ」

 と透は言った。

 その透の笑顔を見て、鞠は、……とくん、と自分の鼓動が、高鳴っていくことを感じた。

 それはもちろん、走ったことによる、心臓の鼓動の高鳴りとはまた、違った意味のある、心臓の鼓動だった。

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