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「……先輩。いきましょう」

 透は言った。

 でも、鞠は動こうとしなかった。

 すると透はいきなり、動こうとしない鞠の手をぎゅっとつかんだ。

「え?」

 鞠は驚いた。なぜなら、鞠の知ってる吉木透という自分の一つ年下の男の子は(突然、女の子の手を握るような)そんな強引な行動をするような男の子ではなかったからだ。

「行きましょう! 先輩」

 透は言った。

「いくって、どこに?」

 涙をぬぐいながら、鞠がそう言っている間に、透はにっこりとまるで子供のような無邪気な笑顔で笑うと、それから鞠の手を握ったままで、夕日に染まる土手の上をいたずらっ子のように、なんの理由もなしに、走り始めた。

「え? あ、ちょっと、吉木くん」

 鞠は、そんな透の後ろについて、透に手を引っ張られるままにして、鞠と透の二人が、まだ幼い中学生の自分たちがこれから、どこに向かおうとしているのかも知らないままで、……元気よく足を動かして土手の上を走り始めた。

「ほら、先輩。早く」

 すごくいい笑顔で透が言う。

「……うん」

 小さく笑って鞠が言う。

 こうして地面の上を走るのは、本当に久しぶりのことだった。そのせいなのかもしれない。……一度走り始めると、なんだか走ることがすごく楽しくなった。

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