16
「……先輩。いきましょう」
透は言った。
でも、鞠は動こうとしなかった。
すると透はいきなり、動こうとしない鞠の手をぎゅっとつかんだ。
「え?」
鞠は驚いた。なぜなら、鞠の知ってる吉木透という自分の一つ年下の男の子は(突然、女の子の手を握るような)そんな強引な行動をするような男の子ではなかったからだ。
「行きましょう! 先輩」
透は言った。
「いくって、どこに?」
涙をぬぐいながら、鞠がそう言っている間に、透はにっこりとまるで子供のような無邪気な笑顔で笑うと、それから鞠の手を握ったままで、夕日に染まる土手の上をいたずらっ子のように、なんの理由もなしに、走り始めた。
「え? あ、ちょっと、吉木くん」
鞠は、そんな透の後ろについて、透に手を引っ張られるままにして、鞠と透の二人が、まだ幼い中学生の自分たちがこれから、どこに向かおうとしているのかも知らないままで、……元気よく足を動かして土手の上を走り始めた。
「ほら、先輩。早く」
すごくいい笑顔で透が言う。
「……うん」
小さく笑って鞠が言う。
こうして地面の上を走るのは、本当に久しぶりのことだった。そのせいなのかもしれない。……一度走り始めると、なんだか走ることがすごく楽しくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます