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「……急にそんなこと言われても、困る」と鞠は言った。
「あ、す、すみません」
透は言う。
でも、謝られても、どうしようも無い。
鞠はなんとなく、周囲をきょろきょろと見渡して見る。
すると、運良く? 土手の下にある河原のところで、誰かほかの鞠たちと同じ中学校の女子生徒数人と一緒に、陸上部の練習をしている親友の『小舟南』の姿が見えた。
あ、ラッキー、と鞠は思う。
「あの、吉木くん」
「はい」
透は真っ赤な顔で鞠を見ている。(透は鞠の返事を待っているのだ)
当然、鞠の顔も真っ赤に染まっている。
「……その、ほら、あそこに友達がいるんだ。吉木くんも知っているでしょ? 私の親友で、陸上部の小舟南。だから、私、……ちょっと、あの、あっち、行ってくるね」
鞠は言う。
「え?」
透は驚いた顔をする。
「えっと、じゃあ、また、明日ね、吉木くん」
鞠はぎこちない作り笑顔でそう言って、透に小さく手を振りながら、土手の上の道から小舟南と、あと数人の三津坂西中学校の女子生徒がいる軽く運動ができるように整備されている河原ところに移動しようとした。
「待ってください先輩」
透が言う。
「……なに?」
足を止めて鞠は言う。
「なにって、まだ、先輩の返事を聞いていません」
透は真剣な顔をしている。(……まあ、当たり前だ)
「……返事って?」
「もちろん、僕の先輩への告白の返事です」透は言う。でも、……鞠はずっと黙っている。
「三雲先輩、……僕と付き合ってください」
その透の告白は、本当に真っ直ぐな告白だった。
その告白は確かにまっすぐに、三雲鞠の心臓を的確に撃ち抜いた。(その証拠に、さっきから鞠の心臓はどきどきしっぱなしだった)
吉木透は真っ直ぐ、本当に真正面から、とても澄んだ瞳で(透の瞳は両方ともきらきらと輝いていた)、三雲鞠の顔をじっと見つめていた。……透は、なんだかいつもよりも、ちょっとだけ男らしい顔をしていた。
そんな吉木透の顔を見て、……ああ、そうか。どんなに可愛くても、どんなに大人しくても、一年下の年下の後輩でも、どんなに弟みたいに思っていても、……吉木くんも、やっぱり『ちゃんとした男の子』なんだな、とそんなことを重い沈黙の中で鞠は思った。
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