「先輩」

 透は言った。

「うん。なに?」

 突然立ち止まった透を見て、鞠は言う。

「僕は、先輩のことが好きです」

 とても真剣な顔をして、突然、吉木透は三雲鞠にそんなことを言った。

「……え?」

 鞠は驚いた顔をして透のことを見た。

 透はすごく真面目な少年だった。真面目で、真面目で真面目すぎるくらいに(そういうところがちょっとだけ自分に似ていて、人生損しそうだな、とかそんなことを勝手に鞠は透に対して密かに思っていた)真面目な少年だった。

 だから、透が嘘やなにかの友達同士の罰ゲームとかで、こんなことを鞠に言っているわけではないことは、透と付き合いの長い音楽部の先輩の鞠にはすぐに理解できた。

 でも、だからこそ、……鞠は困ってしまった。

 どうして私なの? ……とそんなことを鞠は思った。(そんな気配、今まで一度も感じたことがなかった)

「どうして私なの?」そして、鞠はそう思ったことをそのまま言葉にして透に言った。

 鞠は透の中学校の一個上の先輩であり、透は音楽部の一個年下の部員であり、真面目で、自分に似ていて(部活動でも男子生徒の中では、一番仲が良くて)、普段からこんな弟がいたらいいな……、とかそんなことを思っていたりしたから、だから鞠には透のことを可愛い後輩として、きちんと面倒を見る、あるいは、透のことを後輩として、どうにかする? そんな責任のようなものが自分にはあるのだ、と鞠は勝手にそう思った。

 だから鞠は少しお姉さんぶって、自分の気持ちに余裕があるようなつもりになって、冷静を装ったふりをして、透にそんなことを言ってしまった。

 すると透は「初めて先輩にあったときから、ずっと先輩のことが好きだったんです」と鞠に言ったのだった。

 その言葉を聞いて、鞠の顔は真っ赤になった。

 ようやく鞠は、自分の気持ちが、この現場の雰囲気に追いついてきたことを感じた。

 私は今、一つ年下の後輩の男子中学生に愛の告白をされているのだ。

 そんな現実を鞠は理解した。 

 それから、……私は相変わらず恋愛に弱い、と真っ赤な顔を透に隠すようにうつむきながら、そんなことを鞠は思った。

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