「大学は、東京の大学に行くんですか?」

「そんな先のことは、まだわからないよ」

 ふふっと笑って鞠は言った。

「ピアノは続けるんですよね?」

「もちろん。続けるよ」

 鞠は言う。

「……先輩は、将来はやっぱりピアノのプロの演奏家になるんですか?」

「うーん。そうなれたらいいけど、でも、やっぱり、それはちょっと無理かな?」

「無理? どうしてですか?」

 透は言う。

「私の実力じゃ、プロの演奏家にはなれないってこと」

 透を見て、にっこりと笑って、鞠は言う。

「私くらいの実力の人は、それこそ本当に山のようにいると思うし、……でも、そうだな。……たとえば、ピアノの先生とか、学校の音楽の先生になって、ピアノを誰かに教えるような、そんな仕事には将来は就きたいかなって、ちょっと思っている」

 鞠の言葉を聞いて、透は足を止める。

「どうかしたの?」

 鞠は言う。

「なれますよ」

「え?」

 透はにっこりと笑う。

「先輩なら、きっとピアノのプロの演奏家になれますよ」

 透のそんな、なんの根拠もない(だけど、そう言われると結構嬉しい)言葉を聞いて、鞠はきょとんとした顔をする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る