銀色狐と金色狐
綾人を取り逃がした翌朝、琥珀が一人庭園で花を掴みながら悲しみに打ちひしがれていると、二人のあやかしが芝生を植物の間を走ってくる音と共にクロが陸奥の腕を興奮した様子で引っ張ってやって来た。そしてクロは挨拶もせず
「琥珀様!琥珀様!陸奥のペットが凄いんだよ!」
「ペット…?」
「こら!挨拶もせずにいきなり話すなんて…」
「あっ!申し訳ありません琥珀様!陸奥の青い鳥が…」
「青い鳥?あの脱走魔の小鳥か?」
「はい、そうでございます琥珀様。スバルが綾人様の居場所を」
「何!見つけたのか?すぐに教えろ!」
「はっ!ではこちらに…」
綾人が自室で子供達と遊んでいると、外から凄い爆発音と共に信者達の悲鳴が聴こえてきた。
「もしかしてっ…!うっ、やぁっ……はなっ…!」
綾人が外の様子を見ようと窓に近づこうとすると後ろから凄い力で手足を捕まれ、口を布で塞がれたので横目で後ろを見るとギョッとしてしまった。何故なら自分の動きを封じ込めているのがさっきまで遊んでいた猿の子供達だったからだ。
ずっと不思議だった。何故かこの子供達と遊んでいる時だけ監視がつかなかった事、この子達だけが自分の部屋に入るのを許されている事。そして今ようやく理解した。
(そっか…この子達自体が…)
ガタッ
綾人は意識を失い、監視に運ばれた。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!やっ、ダメ!止めて!」
(うっ、何?くる……!)
凛の泣き叫ぶ声で目を覚ますと、仰向けになった綾人の上で琥珀が馬乗りになって首を締めている所だった。琥珀の目を見れば赤くなっていて意識を操られている事をすぐ理解した。だがまだ抵抗しているらしく、あまり苦しくはなかった。だからその隙に周りの状況を理解しようとすると、凛と紫呉、クロが床でうつ伏せになって縄で手足を縛られていた。琥珀と自分は前に見た祭壇の上にいるんだと分かった。
「うっ…いやっ…ううっ…ああっ!」
「こはっ、琥珀!…くっ…大丈…」
琥珀が片手で頭を抑えて首にあった手を緩めたうちに、綾人は下から琥珀にギュッと抱きつき抱き寄せると、琥珀の頬に手をつけた。すると琥珀の目から涙が一筋零れ落ちる。綾人はその涙を拭いてやると、琥珀の唇に口づけをした。そして離すと
「琥珀…ずっと会いたかった。君の名を…うっ…」
琥珀に唇を奪われ、優しく頭を撫でられると今まで溜め込んでいたものが涙となって溢れてきた。
「こはっ…」
「綾人…僕も君に会いたかった。君をこうやって抱きしめたかった。もう君を…失うのは嫌だ…だから、」
「うん、これからもずっと側にいるよ。だからもう…っ」
「離れないし、離さない…でも、まず先にやらねばならない事がある」
「うん」
そう言って綾人を支えながら立ち上がり、部屋の片隅で逃げようとしていた義経達を睨むと
「陸奥!」
「はっ!」
部屋の壁の影から陸奥とその仲間の鬼達が出て来たと思うと、義経達は呆気なく捕らえられてしまった。そして外にいた者達も、国王直属の護衛の者達によって捕らえらたらしい。
昔、まだ隠世が生まれた頃、ある島に銀色狐と金色狐の大変仲の良い神様が居たらしい。
彼等は島のあやかし達を見守り、外敵から島を護っていた。しかしある日から島内で頻繁に争いが起こるようになり、一方が止めようとして瀕死の重症をおってしまった。そして何とか心優しい少女によって救われたのは良かったが、傷口から人々の負の念が入り込み、増幅して遂に悪神へとなってしまった。
もう一匹はそれを嘆き、多くの傷を多いながら何とか島を護ったが、そのまま二匹の狐は海の彼方に消え、その島が何処にあり、その後島民がどうなったか分からなくなってしまったらしい。
綾人達が保護した信者達の中に、偶然その島の子孫の者達がいた。そして彼等の話で分かった事だが、義経達はその二匹の狐に自分達が隠世を支配出来るようにお願いするつもりだったらしい。だが勿論綾人達にそんな力は無く、激怒した国王は義経を組織丸ごと友達の閻魔大王の所に送りつけた。そして昔話の子孫達は、また島での平和な生活を望み、自分達の島へと帰っていた。
一方綾人はと言うと、天狐島に帰った途端高熱を出し、一週間寝込んでしまった。そして間に、髪も元の黒に戻っていた。
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