悪い夢ならば…

「琥珀!琥珀!」


誰かに自分の名を必死に呼ばれているような気がして薄っすらと目を開けると、2歳年上の双子の兄達が涙目で自分の名を呼んでいるのだと気づいた。そしてまだ意識を朦朧と剳せながらベッドの周りを見るとお爺様や他の兄上達、クロ、り…


「はっ!綾人は!綾…っ」

「こら!まだ妖力が…」


一番上の兄上に支えらられながら、ゆっくりとまたベッドに寝かされると、あれが悪い夢であって欲しいと願いながら綾人の所在を聞いた。すると、その場にいた誰もが首を振った。そして自分が空から意識を失って落下し、偶然、いや綾人の計算通り御所の案内をしていたクロと陸奥達に発見され、すぐに医務室で妖力の集中回復をされたそうだが、あとちょっとで死ぬかもしれなかった程危険な状況で丸一日寝ていたらしい。

 そして琥珀はそんな呑気な自分に腹を立てながら昨日あったを事を話した。


 義経は古株だったと言う事もあり、義経を慕っていた従者や王族のショックは大きかった。そして義経の側で共に琥珀に使えていたクロと陸奥は気づけなかった自分達の不甲斐なさを悔み、兄が攫われたと知った凛は泣き崩れ、紫呉はすぐに兵士に取り押さえられたが、暴言を吐きながら琥珀を何度も殴った。そして殴られた琥珀はされるがままそれを受け入れるしかなかった。



 

 綾人が目を覚ますと、そこが座敷牢だとすぐに気づいた。そして蒲団を外して足元を見れば、左脚に枷を嵌められていて、逃げるのは無理だとすぐに諦めた。


 お腹が空いた頃、ご飯を持ってあの義経と呼ばれていた老人がやって来た。


「綾人様、傷は確認しましたが痛い所はありませんか?」

「……貴方達の目的は何なんです?」

「安心して下さい。悪いようにはしませんから。ただ、私達は貴方様達を心から信仰しているって云うだけですから。」

「信仰?何ぜ僕達を…?」

「ふふ、綾人様は分からなくて当然です。ここで一つ昔話をして差し上げましょう。…」



「それが、僕と琥珀だと?だけど残念ながら僕の髪は黒です。人、あやかし違いでは?」

「いえ、そんな訳ありません」


そう言い終わる前に、義経が僕の髪に触れてきた


「なっ!辞め…」

「ふふ、何をおっしゃっているのやら、自分でもすでにお気づきなのでしょ?」

「くっ…」

「あと2、3日もすれば完全な銀色の髪になるでしょう。それまで楽しみですね〜」

「……」

「おや、てっきりもっと抵抗するかと思っておりましたが、案外すぐに従うのですね〜」


綾人はいちいち挑発するように喋りかけてくる義経に心の中で怒りをふつふつと感じながら、それを隠すように蒲団をギュッと握ってキッ…とその男の目を睨むと


「ここはお前らの城だ。つまり僕は籠の中の鳥。少し暴れたところで力のない僕に勝てるわけないし、逃げることなんて到底無理だ。ならば素直に聞くに限る。」

「なるほど、思ったより利口なようで安心しました。でも、琥珀様を逃した件につきましては…」


その目に強い怒りの感情が現れ、思わずビクッと反応してしまったが、自分の理性を保つ為にあえて挑発してみる。


「僕を、痛めつけるきか?」

「ふふ…いえ、信仰神である貴方様にそんな野蛮な真似する訳がありません。しかし、私達の信仰の為に…」


「なるほど、それでお前達の気が済むなら良いだろう」

「はい、ありがとうございます」


 綾人は2日後早速身を清められ、真新しい白い着物と上掛けを着せられると、信者と呼ばれるあやかしの子供やお年寄りと面会し、話を聞いたり、遊んだりした。

 少なくても、それが囚われの身の綾人にとって一番の気のまぐれになった。




 事件から一週間後、琥珀が部屋で小林と話していると、凛を殺そうとして捕らえられた組織の者から情報を入手したという知らせが入り、琥珀は早速情報を手に入れるとすぐに兵を引き連れて島に侵入した。その中には自ら名乗りを挙げた凛や紫呉も入っていた。


 琥珀達が島に着くと、思ったより敵の数は少なく難なく最深部に辿く事ができた。そしてそこで信者と思われる年寄りと子供数人を捉えなたが、綾人の姿はなかった。


「琥珀様!ここに隠し扉が!」

「何!すぐ行くぞ!」




 その頃綾人はと言うと、目隠しをされ、手を後ろで結ばれて舟に乗せられていた。


「あの、何処へ…?」

「大丈夫ですよ。綾人様を狙う者から全て私達が護って差し上げますから。今から行く所にはもっと多くの信者がいるんです。そこに行けば、もう誰にも狙わ…」

(拙い、益々おかしな事になっている。琥珀…早く助けに来て!)



「琥珀様!あれは…」

「綾…」


琥珀が綾人を追うようにクロに支持を出そうとした瞬間、刺客の舟がそれを遮り、それに構っているうちに綾人を乗せた舟を見失ってしまった。



「琥珀…」


 綾人は鉄格子の嵌められた窓に向かって、愛おしい名を呟いた。だがその声は届くはずも無く、せめて居場所が分かれば、自分に抵抗出来るだけの力があれば、…と負の感情だけが湧き上がってきて、涙が溢れる。


ピピッ…


「うん?何だお前は…もしかして、励ましてくれるの?ありがとう」


窓から入り込んできた入り込んできたその青い小鳥は、綾人にどうしたの?と聞いているようだった。綾人はこのか弱い鳥に言葉なんて通じる訳がないと思いながら、全てを話した。そして、その鳥は夜明けと共に飛び去っていってしまった。

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