異世界で君を見つける
宿から出ると、そこが小さな島の山の頂上にあることが分かった。そして海を越えた少し遠くに、街明かりが見える。
「あれが我らの国、天狐島です。そして今僕らがいる島は、いちよ天狐島の領土ではありますが、異世界と通じるゲートのある島なので、入国審査の待合所として使われている場所なのです」
「えっ、それじゃ今祭りに行ったら…」
「大丈夫ですよ。もう入国の手続きは済んでいます。そして帰りは、別の宿に泊まってもらうことになります。そして明日は…まあ、楽しみにしていて下さい」
「?」
小舟に乗りながらまず最初に人口島と呼ばれるあやかし達の商店街のようなエリアを通ると、その街の美しさに圧倒されてしまった。
失われた楽園のような雰囲気の苔むしった和風モダンな廃ビル群には、空中回廊が所々に架けられ、そこを獣系や鬼などのあやかし達が皆楽しそうに行き交う。そして廃墟ビルの中をよく見れば、流石生活品を売っているエリアというだけあって雑貨屋やスーパー、お薬屋さん、駄菓子屋などあやかし達の店が所々に見られた。そしてそんな街を照らすように空には、妖火や祭りの提灯などがふよふよと飛んぶ。
「わぁ〜、お兄ちゃん、綺麗だね」
「うん、異世界に来たって感じだね」
「気に入って頂けましたか?でも、本土はもっと綺麗ですよ」
そう言って本土、あやかし達の居住地域が見えてくると、その口はもう閉まらなくなる。だって、山に沿うように古民家がところ狭しに立ち並び、大通りには昔懐かしい路面電車や屋台が上から下へズラーと立ち並ぶ。そして山の山頂には、清水寺を思わせる神社が大きな岩や森に守られるように建っていて、森の入り口の辺りから千本鳥居のように赤い鳥居がずってある。
「あれは…」
「流石綾人様。あれは王族の皆様の住まわる御所ですよ。そしてあちらに、貴方様のお探しの方が」
「えっ…」
そこで綾人はやっと気づいた
(そうだここは化け狐の王国。ならば琥珀が王族かそれに使える家柄の者であっても、それなら最後に見たあの顔は…)
常に胸の何処かにあった空虚な感情が胸を急に締め付けてきた。それを察したようにクロが
「大丈夫です。琥珀様は行事の為に一時帰国されているだけですから」
「でも…」
「そんな顔されないで下さい。琥珀様は綾人様達に楽しんで欲しくってこの国に呼ばれたのですから、それに…」
「皆様、そろそろ港につきますゲロ」
その若い蛙の船頭さんの声で話は遮られ、クロは先に行って偵察をしてくると、水の上を走って行ってしまった。
港に舟を着けると、戻って来たクロが何やら首に吊り下げる紐のついたお守りのような物を渡してきた
「何これ?」
「皆様の居場所を僕に知らせる追跡装置みたいなものです。もしも皆様が迷子になっても、僕がこちらの地図で皆様の位置を確認してすぐに駆けつけます。と言っても、迷子にならないのが一番なのですがね」
そう言ってクロは苦笑した後、すぐに気を引き締め直したような顔になって、護衛として僕らの屋台巡りに付いてきた。
そして花火大会まであと10分と迫った頃、丘の上の広場が騒がしくなったので行ってみると、ちょうどあの神社の窓辺に、狐と人間の半々の姿の綺麗な着物を纏った若い男性五人と大きな灰色の毛の塊のような年寄りの狐が出て来た所だった。そしてその五人の一番左端っこには
「わぁ〜!お母さん!王族の皆様だよ!」
「あっ!末の王子の琥珀様もいるわよ!」
「本当だ!琥珀殿下!」
「まあ、現世からお帰りになったのね。一時期はどうされたかと思いましたが、現世との見切りをつけられて安心しましたわ」
「噂によれば現世の会えるかどうかも分からぬ人間の為に国を捨てられる覚悟で行かれたんでしょ」
「でも戻って来られたって事は、多分、お会いになれなかったのね。琥珀様には可哀想だけど、明日からお妃探しが始められるのでしょうね」
「あら、それは楽しみね。何しろあんなに綺麗で優しい金色の王子様と結婚できるんですもの。将来の国王陛下でなくっても、一生幸せでしょうね」
「「「……はぁ…琥珀殿下…」」」
そんな横から聞こえてくる声に、綾人の胸は自分でも何故だか分かんないくらい強く締め付けられた。そして上を見上げれば、国民に笑顔で手を振るいつもとは全く違う王子としての琥珀の姿。その眩しさに、自分の不甲斐なさと、住む世界の違いを強く実感させられる。そして綾人は、周りの目を盗んで静かにその場を立ち去った。
後ろから花火の音が聞こえてきて、花火大会が始まった事を知った。だけど、綾人は空を眺める気分になれなくて、一人テコテコと路地裏を歩いていた。そして、前から歩いてきた見るからに不良の豚男三人に気づかず、そのリーダー各の奴にぶっかって、地面に尻もちをついてしまった
「いっ、たたた…」
「おいテメェ!何勝手に俺様にぶっかってやがる!ころされてぇのか!?」
「そうだそうだ!」
「兄貴に謝れ!」
「ごっ、ごめんなさい。どうか…お許しを下さい!」
そう言って立ち去ろうとすると、リーダー各の奴にいきなり腕を捕まれ、グイッと胸の辺りに近づけさせられて顔をジーと見られた。
「なっ、なっ、何でしょうか?その、さっきあや…」
「へぇ〜、これは結構な上玉じゃないか。売ればスゲえ金に」
「???」
「本当ですね。只の珍しい銀色の狐ってだけじゃなくて顔まで良いとは、これは相当な額に」
「???」
「警察に見つかる前に早く売ってしまいましょうよ」
「???」
「おう、でもその前に…」
そう言ってリーダー各のやつが嫌らしい目つきで頬に手を当てて輪郭を確かめるように触れてきたので、流石に不味いと思って身じろぎをした瞬間、男の首元で刃物のようなものが光った。そして男が腰を抜かしたと同時にその背後にいた人物が綾人の後ろにいた二人を睨む。その鋭い赤く光る眼光に、二人は逃げ、まだ首元に日本刀を当てられている男はヒィ…と小さな悲鳴を上げながら可哀想なくらい震えている。そしてその鬼の青年が耳元で何か囁いたかと思うと、すぐに逃げ去っていった。そして残された綾人は、再び向けられたその目に、蛇に睨まれた蛙のように硬直して立っているしかなかった。
「あっ、あ…」
何とか絞り出した声で感謝を述べようとした時、いきなり鬼の青年は跪き、敬礼するように頭を下げると
「綾人様。ご無事で何よりで御座いました。うちのバカに警護をさせていた積もりでしたが、どうやら爪が甘かったよう。こんな恐ろ…」
「あっ!もしかして、君は…」
「はい、私は黒豆の先輩で琥珀様の護衛をしております陸奥と…ふっ、噂をすれば来たようです。ではこれで」
「えっ?ん?」
「ぐわあぁ〜ん!綾人様!!!」
その耳を覆いたくなる程の大きな声と共に、屋根から泣きながらダイブしてくる小さな少年を発見した。しかしすでに避けるには遅く、綾人はそのまま体勢を崩して押し倒されてしまった。そして起き上がると、もうあの青年はいなかった。
おまえ》
「なあ、義経」
「はい、何でしょうか主様」
我が主、第五王子の琥珀様は、自室の窓辺から街を眺めながら、お茶を淹れていた私、蛇のあやかしで側近の義経に声をかけてきた。
「綾人は多分、本当の僕、執着心が強くて、嫉妬深い姿を知ったら、嫌いになってしまうだろうな。それに、綾人は僕の事を友達として、いや、狐の姿の僕が好きなだけかも…」
「琥珀様、去り際に告白をして、ここに来るように促したのは貴方様ではありませんか、もう逃げる事は出来ないのですよ。」
「はぁ…そうだな、自分で逃げられないようにそうしたのに…よし!僕はたとえ振られようと頑張ってみるよ」
「それでこそ我が主」
「流石だな。小さい頃から側にいるとだけあってお前の言葉は背中を押される。いつもありがとう、義経」
「はっ、この老いぼれにとって嬉しきお言葉です。」
そう言って部屋を後にすると、私は早速準備をした。
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