失踪

 季節は冬から春、そして初夏へと巡り巡り、いつしか僕等は互いの仕事中以外は常に共に過ごすようになった。


 琥珀はいつも僕が仕事で疲れた時も、苦しい時も、時に狐の姿、時に中間の姿で僕の心を癒やしてくれる。そんな琥珀に僕はお返しで、手料理や取材の手伝いなどをしてあげる。悪魔で友達以上恋人未満の関係。それで幸せだった。それで互いに満足だと思っていた。

 だけどあの日、僕が遂に決心し、琥珀との約束を果たそうと決めたあの日の次の日、琥珀は突如、僕の前から姿を消した。


 お別れは確かにあったのだろう。でも、僕はそれにすぐ気づけず、いつものようにあの背に手を振てしまった。



ーー2日前、夜9時


 ソファーの上で膝の上に琥珀を乗せていつものようにドライヤーで毛を乾かしてあげる。すると琥珀が気持ち良さそうに僕の手に寄り添い、僕はその姿を微笑ましくて見ていた。それが最近の日常の風景だった。


「琥珀、最近その姿でのドライヤーにもだいぶ慣れてきたね」


僕はドライヤーのスイッチを切り、まだ乾いたばかりでホカホカで、シャンプーの良い香りがして、サラサラな頭を撫でてあげると、琥珀は一瞬狐の姿で上目遣いをして瞳をキラっと輝かせたと思うと、すぐに中間の姿になって僕の肩に寄りかかると


「綾人のドライヤー技術が上がったからかな〜」

「ふふ…まあ、最近ヘアスタイルの人にコツをレクチャーしてもらったから、それは言えるかも。だけど、一番は…」

「はい、はい、昔凛ちゃんの髪乾かして上げていたんでしょ。何度も聞いたよ……でも、  」

「…えっ?」


後半の方が聴き取れなくて、つい聞き返してしまうと、琥珀はまた狐の姿になり、膝の上で「遊ぼうよ」と煽ってきた。だから僕もさっきの事はすぐ忘れて、ボールを取りに行かせたり、追いかけっ子をしたり、犬用のぬいぐるみを引っ張り合ったりして遊んだりだ。


 そして時刻が23時を回った頃、僕は本題を話そうと琥珀と面と向かった。そして…



ピーンポーン…



「えっ…あっ、は…」

「琥珀…?」

「ごめん、多分僕のお客だと思う」

「えっ…?」

「ごめん、僕そろそろ帰るね。」

「あっ…うん、玄関まで送るよ」

「うん、そうしてもらおっかな」


そう言って、彼を玄関のドアを開けた時、初老の執事風の男性が立っていた。そして琥珀がその男性と少し会話をかわした後、いきなり僕に強く抱きついてきた。


「君が好きだ」

「はっ…」

「じゃあね…綾人」


そう困惑しながら彼の子供っぽく照れ笑いをする彼の姿を見たのと、ドアが閉まったのは同時だった。そしてそれを最後に、消えてしまった。今思えば、あの日はいつもよりサービスが多かったような、時々悲しそうな顔をしていたような……。




 それから2日後の今日の朝、僕が彼の部屋を訪れると、物は全て消え去っていて、まるでそこにもとから誰も住んでいなかったかのような清潔感が広がっていた。

 そして僕はそのリビングの窓辺で、一通の手紙を見つけた。

 そこには、



  『君をあの場所で待っているよ』



と言う謎のメッセージと何かの鍵、そして…

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