君の仰せのままに
綾人は重い荷物を両手に、マンションのフロントで溜息をついた。
「あれ?綾人じゃないか、久しぶりだね」
その声の主の方を見てみると、そこにはクリーム色の髪の毛と整った顔が印象的なスレンダーな男性が立っていた。
彼の名は
「お久しぶりですね。紫呉さん。この時間にお出かけとは…デートですか?」
「そんな訳ないでしょ。だって、僕にとって仕事こそ恋人だからね。」
「さらっとカッコいい事言ってますけど、早めに捕まえといた方がいいですよ」
「そんな事、可愛い弟に言われなくても分かってるよ」
ギュッ
「あ、痛い痛い痛い!もう耳引っ張らないで下さいよ!」
「ごめんごめん。せいぜい変な奴に捕まらないように気をつけなよ。綾人すぐ付いていきそうだから…あっ、もうこんな時間!悪い、僕これからラジオにゲスト出演するんだ。だからまた今度じっくり話そうな」
そう言って、当たり前のように綾人の髪の毛を撫でた後、優雅に立ち去っていった。
綾人はエレベーターから降りた後、ドアの前にまた琥珀がいないかな?と思いつつ、やっぱり居る訳ないっかと溜息をまたついて部屋に入ると、そのままソファーに顔を埋めて、今日一日の事を思い出す。
朝、何とか琥珀を追い出したのは良かったが、仕事中あのもふもふが頭から離れず、ミスを連発、上司に当然叱られ、ストレスからスーパーで食材を買いすぎると言う、何とも情けないミスをしてしまった自分を哀れんだ。
「はぁ…取り敢えずこの食材達どうしょう?」
「じゃあ、僕が一緒に消費してあげるよ」
「ふぇ…?」
声のした方を見ると、ベランダにあの狐姿の琥珀がいた。夜の月明かりに照らされている姿が、何とも絵になっていた。
僕は窓を開けると思わず琥珀を抱き上げてボフッとその胸の毛に顔を埋め込んだ。そして頭を左右に揺らしてその毛を堪能する。
琥珀は嫌がって手足をバタバタさせて綾人が怯んで腕の力を緩めた隙に、背中を伝ってソファーの枕と枕の間に体を埋め込んだ。そして隙間からこちらを睨んでるのが、やはり可愛いとしか見えないのだから哀れとしか言いようがない。
「琥珀さん」
「あっ、僕の名前は琥珀で良いよ。それより今日の晩御飯は何だい?」
クッションとクッションの間から出てる耳や尻尾が早く早くと嬉しそうに揺れている。
それを幸せそうに横目に見ながら、綾人は冷蔵庫からひき肉を取り出し
「今日は、久しぶりにハンバーグを作ってみようと思うんだけど、琥珀は好き?」
「え〜、好きか嫌いで言ったら好きだけど、琥珀はメンチカツを所望します。何故なら今日お昼に料理番組でメンチカツを見て、綾人のメンチカツが沢山食べたくてお昼抜きにしたからです。」
「えっ、それ理由になって無いよね。クスッ、まあ、琥珀が食べたいならメニュー変更するよ」
「わぁーい!わぁーい!やった!やった!早く作って!作って!」
「はいはい、分かったから大人しく待っていてね!」
琥珀は子供のようにソファーの上でぴょんぴょんしたかと思うと、今度は腰を少し上げて尻尾をブンブン振りながら、伏せた状態で綾人の料理している姿を上目遣いで眺めていた。そして、油がパチパチ鳴る音に小刻みに耳をピクピクさせるのが可愛らしかった。
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