主にミステリーを中心に執筆されている著者による、異色の近未来ファンタジー小説。
特筆すべきは、ある種極まったキャラクター造形。
各々の登場キャラクターに付された、特異「過ぎる」描写、加えて、「己」「我」などと云った、普通なら絶対にお目にかかれない一人称に、思わず「オウッ」と身を捩り悶える事必定。
しかしながら、それだけに終わらないのがこの作品。
読んで行く内に、恐らくはミステリーの執筆に依り培われた確かな世界描写に魅せられ、その中で縦横無尽に動き回る登場人物の姿に、さながら歌舞伎の千両役者の一流の見得切りを見せられている様な快感を覚え、当初感じた違和感など何処へやら。
何時しか「もっとだ、もっと頂戴。」と物語を読み進めて行く中で、登場人物達の直面する過酷な運命に、思わず固唾を飲んで応援してしまっている。その頃には貴方はこの世界の立派な住人と化している事に気付く事でしょう。
普段味わえない独特の味わいを持つこの作品、これを機会にどうぞ御照覧あれ。