第4話 展示物027

「展示物027には多くの人が餌食になった。特に若い人はこれの犠牲になりやすい」 ガラスケースの向こうに鎮座しているのは、重厚感のある西洋風の甲冑だった。しかし闘うための装備にしては、やたらと華美な羽根飾りや宝石が全身に散りばめられている。

「餌食ってどういうことですか?」

「この鎧は一度身につけると、脱ぐのが難しい。とても着心地が良いし、見栄えが良いからね。それにとても強くなった気になるんだ。結果として自分の力を過信したり、選択を間違えてしまうことになる」

「実際に強くなるわけではないんですか?」

「何かを着たぐらいで強くなるなら苦労はしないさ。この鎧は着た者の弱い部分を覆い隠して、見栄えを良くしているに過ぎない。いくら着飾ったって、それは本当の姿ではないのさ」

 先輩は軽蔑するように鼻を鳴らした。

「それに、展示物027は致命的な欠陥がある」

「なんですか?」

「肝心の鎧としての機能が全くない。本当のところを言うと、防御力はただの紙細工とあまり変わらないんだ」

 だから後生大事にケースに入れて保管してるんだよ、と先輩は言った。

「それでも着る人は多いんですよね」

「うん。さっきも言ったように、これで弱さを覆うことはできる。その弱さが例え、闘いの中で受けた傷であってもね。傷を受けた本人が気付かない程度には上手くごまかすことができる」

「でも、それって…」

「そう。自分でも気付かないうちに、闘いの中で体はボロボロになっていく。でも傷が治療されることはない。だって気付いてないんだから。やがて体は鎧の中で段々と腐り始める。そしてある時、鎧を外すと」

「やめてください!」

 リアルな情景を想像してしまった私は、先輩の言葉を思わず遮った。

「だから展示物027は危険なんだ。そして、自分を強く見せたい若者ほど、手を出してしまいやすい」

 話を聞いてからもう一度展示物027を見ると、その隙間から着用者の弱り切った体が覗いているような気がした。

「少々気分の悪い思いをさせてしまったようだな。あっちで休憩しようか」

 先輩はそう言いながら私を展示室から連れ出した。


展示物027ー虚勢〈キョセイ〉ー

 


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