第3話 新たな歯車
先輩から本を読み終えた頃には朝になっていたので、僕はそのまま大学へと向かった。
ピロリン!
僕の携帯が鳴る、どうやら永見先輩からのLINEを送ってきたらしい。
永見先輩「今日の新歓はPM4:00から昨日の部屋でやる事になったから良かったら来てね」
「了解です,連絡ありがとうございます」遊真
永見先輩「気にしなくていいよ、あと本を返すのはいつでも良いよ」
「なら、今日返します。新歓のついでに」遊真
永見先輩から了解のスタンプが来た事を確認したところで僕はLINEを閉じた。
外は、四月にしては少し肌寒かったが不思議と僕の体は暖かった。確信はないが、僕は嬉しいのだろう。この二年間、無気力に過ごしてた自分が彼女をキッカケに動ける事が。こうして彼女の好きなものに触れている間は彼女を感じる事が出来る、それが堪らなく嬉しいのだ。
僕は校門から教室までまっすぐ伸びる道を少しだけ陽気に、けれども確かな足取りで、歩いていった。
午前中の講義を終え、僕は再び旧友の晴海と共に食堂で昼食を取っていた。
「晴海、俺さ、サークルに入る事に決めたよ」
「お、おぉマジか。喜ばしい事だが昨日の今日で唐突だな」
彼は一瞬キョトンとした顔をしていたがすぐにそれを祝福してくれた。まるで自分のことのように喜ぶ彼を見て、僕は本当に良い友を持ったと改めて思った。
「それで、どんなサークルに入るんだ?」
「空想科学実現サークルRIALってとこだよ」
「ふーん、変わったサークルだな。まぁ選んだ理由は察しがつくがな」
彼はニヤリとして、僕の目を見ていった。彼も勿論、彼女が空想科学が好きだった事は知っているので理由を察するのは当然だろう。
「それでさ、今日新歓があるらしいから行ってくるよ」
「おう、行ってこい。バッチリと決めてくるんだぞ」
「あぁ、勿論だ」
そう言うと、僕と彼は成功を祈りながらほとんど水が入っていないグラスで乾杯をした。
午後四時、僕は時間通りに空想科学実現サークルの部屋に着いた。入り口には昨日は無かった新歓パーティーという文字が虹色で書いてある。
「お、遊真君。来てくれたんだね、嬉しいよ。さ、入って入って」
永見先輩はそう言うと僕の背中をグイグイと押しながら部屋入れた。若干の戸惑いはあったが、永見先輩の持つ独特の雰囲気なのか、そうされる事に不思議と嫌な気はしなかった。
「さ、じゃあそろそろ始めようか。じゃあみんな目の前にあるコップを持って」
指示通り僕も目の前にあるコップを持った。
「それじゃあ、乾杯!」
「「「「乾杯!」」」
永見先輩が多少の挨拶と乾杯の掛け声と共に共にサークルのメンバー達が乾杯を始めた。
各々が楽しそうに話している、人数はおよそ10人程の小さなサークルではあるが皆仲良くしている。
「じゃあ、新入生の2人には自己紹介をして貰おうかな。まず、遊真君から」
「えっ、あ、はい。1年の坂本遊真です。空想科学について詳しい訳ではないですが興味あるのでよろしくお願いします」
突然の指名で拙い自己紹介になってしまったが、先輩方は皆拍手をしてくれた。
僕がホッと胸を撫で下ろすと、隣にいた女の人も自己紹介を始めた。
「同じく1年の
そう言ったりーちゃんこと、神代さんは茶色のロングヘアーに、ぱっちりした目、口調などにはギャル感が少しあるものの見た目は清楚な感じの美人だった。
今回は僕と神代さん以外の新入生はいない為新入生の自己紹介は終わり、先輩達も順番に自己紹介をして貰った。先輩との談笑やミニゲームなどを行って三時間ほど経った頃、そろそろお開きという事で解散となった。
僕が新歓パーティーの片付けを手伝い、そろそろ帰ろうとした時、一人の女性に声をかけられた。
「ねぇ、遊真君。ちょっとこの後私と付き合ってよ」
僕に声をかけた女性の正体は神代さんだった。
「いいよ、付き合うよ神代さん」
「あー、私の事はりーちゃんって呼んでって言ったじゃん!」
彼女は少々頬を膨らませたものの、溜め息を一度着くとまぁいいやと言った雰囲気で僕を見た。
「じゃあこれから付き合ってもらうよ、大丈夫、お店ならもう決めてあるから」
時間帯的にも夕食のお誘いといった所だろう、確かに新入生同士ある程度仲を深めるのは良い事だ。
僕は恐らく二年ぶりくらいになるだろう晴海以外の人と夕食を共にする事を決め、彼女の隣を歩いた。
新たな歯車が、創られ、造られ、作られて、心の空白部分に埋め込まれていく、そんな感覚がした。
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