桜の木に宿る悪魔~と~
――『やつら』ってのは何となくわかる。
だが、『奇蹟者』なんてのは聞いたこともねぇな。なんにせよ、やつは何か知ってるな。だが、この場で
「てか、あの野郎、わざと俺にだけ聞こえる声で……」
「さて、まるちゃんも行ってしまいましたし、今は私達だけでやれることをやりましょう」
「お前、まるちゃんて呼んでんのかよ」
「それはそうですよ。上司のご命令なので」
「かー。律儀だなぁ。あんな得体の知れない存在に……。まぁ、今する話ではないな。話を進めるか」
「そうだよ。今はそれどころじゃない。僕たちは約束を果たした。
「えぇ。そうですね。や、き、に、く、ですね? それにしても、この現場見て、よくもまだ肉が食べたいなんて言えますね。正直なところ、別のものになるかと思ってましたよ。まぁ、約束は約束ですからね。私は一度署に戻らなければならないので、夜になったら、私の家に来てください。最高のお肉を用意してお待ちしていますよ」
「えー。ジョジョ肉の約束だったじゃん!」
「俺は、
「そうですか。わかりました。純次にはビールを。あら、例えばですが、ジョジョよりおいしいお肉がある……。大事なことなので、もう一度、ジョジョよりおいしいお肉があると、言ったらどうしますか?」
不敵に笑う弥勒の眼鏡が鋭利な刃物の先端のようにドス黒く輝く。
魅力的な餌を前に、
「ですが、その前に『検討会』ですよ。そのために私の家でというわけなので」
「了解しました!」と、二人が元気よく応えるのを見届けた後、
「さて……。夜に備えて、もう少し現場を見ておくか?」
「そうだね。被害者の情報と、この現場は把握出来たけど、動機が全く見当もつかない。これだけの人物だし、恨まれている可能性は大いにありそうだけど……。一度整理した方がよさそうだね」
「その辺の情報は
「うわっ! ちょ、ちょっと、風吹いてんだから!」
調査書が風に
書類をなんとか掴もうと伸ばした手、その先の規制線の向こう側に仮面を被った何者かの姿が見えた。
書類がひらひらと表から裏へ、裏から表へ、何枚も宙を舞う中、時が止まったかのように感じるこの空間で、
それを被った男。いや、おそらく男だろうという判断。
黒いパンツに黒いシャツ、身長180センチくらいで、線は細いが、引き締まった身体。何よりも、仮面で顔が確認出来ないことや、肩まで伸びた長い髪が、判別のつかない大きな要因となった。
全ての書類が地面に落ちる頃、その姿はどこにも無かった。
「なんだ。今のやつは……」
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