第1章 Bパート
「春の日に井戸の井、小さい雨と書きまして『
小雨さんのパンチの効いた自己紹介に、部室が一瞬水底のように静まり返る……。これはあれか?「宇宙人!未来人!異世界人がいたら私のところにきなさーい!」的なやつなのか?それともボケなのか?
「どうしましょう部長。盛大に滑ってしまいました」
「あはは……そのようだね」
どうやら後者だったらしい。初対面の相手に対してビミョ~にわかりづらい上ツッコミにくいネタをぶっこんでくるとは……おしとやかな見た目からは想像できないほど肝が座っていらっしゃる。
「すみません。本当の趣味はウミウシ鑑賞です」
もしかしてこれもボケなのだろうか。まさに
「なかなか面白い子ね♪ うん、気に入ったわ! SOS団に入れてあげてもいいわよ! あー、でも有希とキャラ被っちゃうかしら?」
長門、お前あんな風に見られてるらしいぞ。
何か言ってやったらどうなんだ……って、いつまでそのゴーグル付けてんだYO。
「大変光栄なお話ですが、籍はコンピューター研究会に置いてありますので」
「あら、やっぱりあんたのところの部員じゃない。どこに隠してたのよこんな逸材」
「これはボクから話していいものなのか……」
「さてはあなた、このSOS団を調査するために派遣されてきたエージェントね!? 所属は……そうね、未来の秘密組織ってことかしら♪」
「ひぇふぅッ!」
朝比奈さんがとても活字では表現できないような声で叫ぶ。
今ハルヒが口にした設定まんま当てはまる人だからな。俺も一瞬ドキッとしたくらいだ。
「どうしたのみくるちゃん? キョンにセクハラでもされたの?」
「ち、ちがいますぅ~!」
俺と朝比奈さんが立ってる位置をよく見ろ。距離があるのにどうしてそうなるんだ。手足が伸びるインド人か俺は。朝比奈さんも目に涙を溜めて俺の方見んで下さい。本当に罪を犯してしまった気分に
「この流れですと何を話してもボケだと思われてしまいそうなので、やっぱり部長の方からお願いできますか?」
「わ、わかった……コホン。小雨くんは、その……身体が少し弱くてだな、去年はほとんど学校にくることができなかったんだ。それで出席日数が足りなくて……」
「つまり留年したってことね!」
慎重に言葉を選んでいた部長さんの気遣いを一瞬で無にするハルヒ。しかし、本人は全く気にする素振りも見せず、両手でピースを作っておどけてみせている。無表情で。
「そうです。ダブっちゃいました。イェーイ」
「イェーイ!」
「イェーイじゃないだろ。仮にも年上だぞ。もう少し敬意を払え敬意を」
「いえいえ。変に気を使われるより、涼宮さんのように接してもらった方がこちらも楽なので」
「ほらみなさい。それに、今ここに居るってことは、体調の方はもう良くなったんでしょ?」
「はい。この通り、もう全快です」
の割りに部長さんの表情が冴えないのが気になるが……。
とりあえず今まで見かけなかった理由もわかったことだし、事情が事情なだけにこれ以上
そのあと、俺らの方からも軽く挨拶を済ませ、当たり障りのない会話をしながら各々の席に座り、全員がパソコンの電源入れ終え準備が整ったところで、ようやく本題へと入ることになった。
で、今日は何をするんだっけ?
「デスクトップに虹色のアイコンがあるでしょ? それをクリックしてちょうだい」
言われた通りにソフトを起動すると、ディスプレイにゲームのタイトルらしき文字が七色に光りながら浮かび上がってきた。それを見て、真っ先にハルヒ好みのリアクションをとったのは、またしてもこいつだ。
「お、ラジドリですか~。さすが涼宮さん。流行の最先端をしっかりと押さえてきますね」
「でしょ~、フフン♪」
「お前は何でも知ってるな~」
「何でもは知りませんよ。知ってることだけです。もしかしてご存知ないのですか?」
古泉の話によるとバンドリ――じゃなくてラジドリ、正式名称「
「たるみすぎよキョン! 『面白そうな事』はどこに転がってるかわからないんだから、アンテナは常に立てておきなさいっていつも言ってるでしょ! ていうか、こんなのアンテナ立てるまでもないわ。常識よ常識!」
どこの一般常識だそれは。普段ゲームをやらないような人にもその常識が通じるなら俺も非を認めてやろう。
「私もたま~にですが、鶴屋さんと一緒にやったりしてます~」
まーたこのパターンか。どうせ長門も知ってんだろ。はいはい、俺だけ仲間ハズレですよー。 ……おや? おやおやおや? 長門さん? 君のキャラ、まだレベル1じゃないですか。そうかそうか、長門も初めてか。うんうん、いくら情報統合思念体とはいえ、知らないことの一つや二つくらいあるよな。いやぁ、仲間がいて嬉しいだなんて決して思ってないぞ。
「長門さんは一度転生済みですか。結構やり込んでますね」
「あ、本当だ。すご~い」
どうやらこのゲームはレベルを最大の99まで上げると、キャラを転生させることができるらしい。レベルが1に戻ってしまう代わりに、スキルやステータスの上限が解放されて、転生前より更なる成長が可能になるとかなんとか。なんだその七面倒くさいシステムは。普通に99の次は100でいいだろ。まったく……おかげで恥をかいてしまったじゃないか。
「安心しなさいキョン! 私も初心者よ♪」
まさかハルヒに同情されるとは。
気遣いには一応感謝しておくが、仕切り役がそんなノリで大丈夫なのか。長門は誰かにモノを教えるってタイプじゃないし。
「相変わらず察しが悪いわね。なんでコンピ研の二人がいるのか、少しは考えなさいよ」
「ボクは小雨くんの付き添いみたいなものだから、わからないことがあれば彼女に聞くといいよ」
「え、私だけ廃人扱いですか。部長ひどい」
「あ、いや、そういうつもりでは……」
「冗談です。上手くご案内できるかわかりませんが、少しでも皆さんのお役に立てたら幸いです」
なるほど。そのための部長と小雨さんか。ハルヒがガイド役じゃまともにゲームを楽しめそうにもないからな。開始する前から大いに役立っていると言える。ありがたやありがたや。
よし、そうと分かれば安心して始めることができるぞ。とりあえず俺とハルヒはキャラクリエイトからだな。ふむふむ。ゲーム内の名前、性別、種族、役職か。あえて女性キャラというのもありなのだろうか? お、このダークエルフって種族はなかなか好みな見た目してるぞ。結構悩むなこれ。
「あー、そうそう。みんなのキャラは見た目とか全部現実と同じにしてもらうから。名前は本名じゃなくてもいいけど、分かりやすいのじゃないとダメよ」
こいつには個人情報という概念がないのか……。それに見た目をリアルと同じにするのだって、相当骨が折れる作業になることくらい初心者の俺でも分かるぞ。
「フォトスキャン機能があるので簡単にできますよ」
小雨さんの言うとおり、なぜかマイドキュメントに入っていた俺の顔写真をゲーム内で読み込んでみたら、ものの数秒で分身が出来上がってしまった。そして、すでにプレイ済みの古泉、朝比奈さん、長門の3人も、ゲーム内のアイテムを使用して強制的に見た目と名前を変更させられるハメに。
まぁ俺なんかの顔をネット上に晒したところで大した影響もないだろうし、まともに作っていたら日が暮れそうだったので楽っちゃあ楽だが、女性陣はさすがにまずいんじゃないのか?
「そうですね。確かに推奨はできません。ですが、キャラデータ閲覧をフレンドもしくはギルド内限定に設定すれば、他のプレイヤーにはプリセットのフェイスモデルで表示されますし、名前も出ないのでコンタクトをとることもできません。あまりにも鬱陶しいプレイヤーがいたら相手から自分を見えなくすることも可能です」
へ~、そんなこともできるのか。
道理でこういうのを一番嫌がりそうな朝比奈さんが抵抗しないわけだ。
というわけで俺に与えられた唯一の選択権は役職のみとなってしまった。目立ちたがりのハルヒは迷わずモーションが派手な近距離タイプのアタッカーを選んだが、俺はできるだけ楽をしたいので後衛の回復職をやらせてもらうことにした。ちなみに朝比奈さんは遠距離タイプのアタッカーで、長門は本人曰く「何でもできる」らしい。なんだ「何でも」って。
「このゲームは好きな時に好きなジョブに変更できるので、おそらく言葉通りの意味かと思われます。実はボクもヒーラーだったのですが、貴方がやりたいと仰ってくれたので、今しがたアタッカーにジョブチェンジさせていただきました」
「そうか。そりゃあ悪いことをしたな」
「いえいえ。がんばってください」
頑張るも何も後ろで適当に回復魔法唱えてりゃいいだけだろ。少なくとも俺が知っているRPGの回復役はそういうもんだ。そんな無駄話をしていたらハルヒの貧乏ゆすりが激しくなってきたので、カミナリが落ちる前に早速冒険へと出掛けることにした。
…………。
「ふぇぇ~、蘇生お願いします~」
「朝比奈さーーーーーーーん!」
「くっ、石化状態になってしまいました。解除お願いします」
「古泉ーーーーーーーーーーーー!」
「ちょっとキョン! 私がリーダーなんだからこっちの回復優先しなさいよ!」
「ヨーーーーーソローーーーーーーーー!」
はぁはぁ……。
ヒーラーがこんな忙しいだなんて聞いてないぞ……。
古泉、お前知ってて黙ってたな?
「すみません。こういうのは先入観なしでプレイした方が楽しいと思いまして」
「あぁ、楽しかったよ。運動してないのに息が切れるくらいにな」
「それだけやり甲斐を感じたと解釈しておきます♪」
攻撃と回復をこなせる特殊ジョブの長門、盾役として敵を上手く引き付けてくれていた小雨さん、この二人に助けられた感は否めないが、確かにパーティーの命綱を握っているようで程よい緊張感ではあった。
しっかし2週目の長門はともかく、俺とハルヒ以外はみんなレベルが20とか30なのに、こんなにも苦戦するものなのか? まだ最初の方のダンジョンだぞ。
そんな初心者丸出しの疑問にも、小雨さんは懇切丁寧に答えてくれる。
「パーティーで攻略するタイプのダンジョンは、レベルの補正がかかるんです。今回は涼宮さんが部屋主なので、適正レベルを大幅に超える参加者は涼宮さんのレベルにシンクする形がとられました。ちなみに逆のパターン、低レベル帯のプレイヤーが高レベル帯のダンジョン部屋に参加することはできません」
さっきの閲覧制限といい上手いことできてんだな。こういう所も人気の理由だったりするのだろうか。
「そうですね。レベルシンク自体は割りと一般的なシステムですが、全体的にここまでユーザーフレンドリーなオンラインゲームは中々ないと思います。ただ――ラジカルドリーマーズが人気の理由は、もっと別のところにあります」
「別のところ?」
「無限大の可能性……とでも言いますか、とにかくこのゲームは何でもできてしまうんです」
説明があまりにも漠然としているので試しにいくつか例を挙げてもらったが、ゲームの中で様々なゲームができる、映画の撮影、編集、上映ができる、会社を設立できる。この3つだけでも十分「何でも」に値する内容であった。
言ってしまえば、敵を倒してレベルアップしなくても、この世界では様々な形で社会、文化、生活に携わることができるというわけだ。農家や商人をしながらのんびり稼ぐもよし、服飾スキルを極めて新しいデザインの衣装を生産したり、オリジナルブランドを立ち上げるもよし、初心者をサポートするベテラン派遣会社を経営するもよし、サッカーや野球のチームを作って活動するもよし。
『君の想いで拡がる世界』というキャッチコピーに違わず、今こうしている間にも運営とユーザーの積極的な取り組みによって、新しいエリアやできる事が増え続けているらしい。ラジドリではゲーム内世界のことを「ドリームワールド」と称しているが、まさに何でもできる夢の空間といった感じだ。
さすがハルヒに目をつけられるだけあって、そんじょそこらのゲームと訳が違うのは、この手のジャンルに疎い俺でも十二分に理解できた。
「甘いわよキョン。まだこれを使ってもいないのに、この程度でわかった気にならないでくれるかしら」
そう言いながら
「おお? おおおおおおお!? こりゃすげーなー!」
グラフィックが綺麗になったとかそんなレベルの話ではない。風に揺れる木々の動きから長門の頬っぺのプニプニ具合に至るまで、今自分が見ているものすべてに
モニター越しではさほど気にならなった朝比奈さんの肌色成分多めの装備も、VRでは刺激が強すぎて正直目のやり場に困る。本人は気付いてないっぽいので、一応忠告だけしておこう。
「ふぇ? あ……い……いやあああああああ! 見ないでくださいーーーー!」
朝比奈さんには大変申し訳ないが、この世界の際どい衣装で色んな姿を拝めると思うと、技術革新には感謝せざるを得ない。ありがとうノイマン先生。
しかし、なんというか…… ここまでリアルだと――
「どっちが現実かわからないわね!」
ハルヒのそのセリフを聞いて、背筋が寒くなったのは俺だけではない様だ。古泉は急に黙り込み、朝比奈さんは顔面蒼白で震え、長門はいつも通り表情一つ変えないでいる。
以前古泉は、アナログにしろデジタルにしろ、ゲームが関わるイベント事でハルヒが改変能力を発動しにくい理由について
「無意識下でゲームはゲーム、現実は現実と線引きできているからではないでしょうか」
と推察していた。その理論が正しければ……今回はかなり不味い状況だ。VRによってゲームと現実の境界線がひどく曖昧なものになっており、ハルヒの人差し指はいつでもトリガーを引ける状態にある。それどころか、すでに何かしてしまった可能性すらある。あくまでも憶測にすぎないので、杞憂に終わってくれればいいのだが……
ピー!ピー!ピー!
その時、急に画面の右端に『
早速ゲーム内世界に閉じ込められてしまったのかと思いきや、小雨さんによると「これはレイドと呼ばれる緊急クエストの告知です」とのこと。タイミング良すぎだろう……。
ちなみにこのレイド戦とやらは、告知から1時間後に闇の勢力が戦闘区域に送り込まれ、プレイヤー側が押し返した場合は多大な報酬が、防衛できなかった場合はそのサーバーに様々なペナルティが課せられてしまうらしい。具体的にはユーザーの住宅や家財が被害を受けたり、復興増税を余儀なくされたり、面白いのはそういう時の為の保険会社もゲーム内に存在していることだ。
云わば一蓮托生のようなこのシステムは、賛否両論ながらある意味防衛回数がステータスとなっており、サーバー間の競争心を刺激することで「この世界は常に動き続けている」と意識させることに成功しているとか。
血の気の多いハルヒは乗り込む気満々でいたが、小雨さんが「初心者二人連れでは足手まといになってしまう」という本音をオブラートに包みつつ「今回は見学だけにしておきましょう」と上手く誘導してくれたので、犬と鷲が合体したような巨大輸送生物に乗って、戦闘エリアが一望できる高台へと向かうことにした。
そこでは、映画の
「何か凄いことやってるように見えるかもしれませんが、ぶっちゃけただの陣取りゲームです。少しずつ前線を押し上げていき、最終的に相手の拠点を落とした方が勝ちとなります」
またしても小雨さんが、若干毒を含みつつ解説を添えてくれる。これなら俺やハルヒみたいな初心者でも、基礎的な動きさえ覚えてしまえば参加できるかもしれない。
大体の雰囲気が掴めたところでレイドエリアを離れ、そのあとは古泉の提案で戦闘モードをOFFにしてゲーム内の観光名所を巡ることになった。ファンタジーだったり、サイバーパンクだったり、ゴシックだったり、深海だったり、まるで遊園地のように目まぐるしく変わる世界観を、俺たちは記念撮影をしながら心ゆくまで楽しんだ。
そんなことをしていたら、現実の方はあっという間に下校時刻30分前だ。
ログアウト前に全員でアイテム整理をしている最中、さっきのレイド戦の結果が表示されたが、どうやら今回はプレイヤー側が負けてしまったらしい。初心者にはほとんど影響がないとはいえ、どこか他人事と思えなかったのは、俺もこの数時間でラジドリに魅了されてしまった証拠なのかもしれない。
若干後ろ髪を引かれる思いでパソコンの電源を落とした、次の瞬間――
突如、部室がグニャリと大きく揺れた。
「地震よ! 机の下に隠れなさい!」
不意打ちのような出来事に一瞬身体が固まってしまったが、通りの良いハルヒの声のおかげで、俺たちはすぐさま避難訓練のマニュアル通りに行動することができた。
ただ一人を除いて。
こんな時でも冷静沈着とはさすが長門だ。冷静すぎて今にも本棚の上から落ちてきそうなきそうなダンボールに、これっぽっちも気付いていやしない。
「長門ッ――――――!」
…………。
ちょうど俺の背中にダンボール箱が直撃したタイミングで地震は止んだ。
「みんな大丈夫!? ケガはない!?」
珍しくハルヒが団長っぽいことをしている。幸い箱の中身は使わなくなったプラスチック製のカゴだったので、俺へのダメージも少なく長門もなんとか守ることができた。できたのだが……
「キョ、キョ、キョキョキョキョキョ、キョンくん……」
若干軽蔑成分を含んだ朝比奈さんの視線の先を辿ってみると、あろうことか俺の左手が長門の右胸を正確に捉えているではないか。
「キョン……あんたってやつは……」
読める。ハルヒの動きの軌跡が。どう動くかすべて見える。
この未来予知は絶対であり、覆すことはできない。
そして、俺の頬にはその『結果』だけが綺麗に残った。
「理不尽だ~!」なんてラブコメの主人公みたいな事は言わんぞ俺は。助けたい一心で体を動かしただけだ。それは長門もわかってくれるだろう。……わかってくれるよな? お前に避けられたら本気でヘコむぞ。
結局この日は、地震とラッキースケベ以外は何事もなくお開きになった。
その後も、平日、休日問わず暇を見つけては部室に集まり、
「そういやこれオンラインゲームだろ? いちいち集まる必要あんのか?」
「私はみんなとわちゃわちゃしながらやりたいの!」
「最先端のゲームやってる割りにその辺は前時代的なんだな」
「いちいちうるさいわね……」
「まぁでも、なんとなく涼宮くんの言いたいこともわかるよ」
「珍しいですね。部長自ら話に入っていくなんて」
「あ、いや……やっぱりローカル対戦の楽しさは特別だからね。それをわかってくれる人は仲間に思えてしまって。はは……」
「素晴らしいわ! キョンも彼を見習いなさい!」
「へいへい」
こんな風に暢気な会話をしながら、ラジドリに没頭する日々を過ごした。
最初は必要以上に警戒してしまった小雨さん(with部長)も今ではだいぶ打ち解け、長らくこのポジションを死守してきた谷口が可哀想に思えるくらい、準レギュラーとしてすっかりお馴染みの存在になっていた。
もともと彼女は初心者組がある程度慣れたら「自分は抜けます」と明言していたが、それを引き留めたのは意外にもハルヒだった。確かに少し変わっているとはいえ、ハルヒがここまで他人に興味を示すのも珍しいなと思いつつ、1年の頃に比べて大分まともになったなぁと感慨に浸る俺であった。
改変能力がメンタルに大きく左右されることを考慮すると、ハルヒがただの人になってしまう日も近いのかもしれない。なあに、もしそうなったら3期は日常編をやればいいさ。え?もうあるって?あれは別の時系列だからパラレル扱いだろう。なに?3期やるならちゃんとSFしてくれないとファンが怒る?そんなの知ったことか。毎回ひどい目に遭わされるこっちの身にもなってくれ。
などと脳内で一人漫才をしながら、俺は今日もハルヒより少しだけ早く部室へと赴き、長門が本を読んでいる横で、朝比奈さんが淹れてくれた一番茶をズズっと啜った。
この安息が、ずっと続くことを願いながら―――
…………。
しかし
それは
見えないところで
闇を這うように
ゆっくりと
そして、着実に
――俺たちの日常を蝕んでいた。
涼宮ハルヒの拡張 なこと @daigakuimo1111
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