第13話 ノート page12

 ところが、進学問題が深刻化してくると、そうはいきません。

 母さんは私がなかなか強情なのに手を焼き、たまらずパパに愚痴をこぼしたのです。

 夜中にトイレに行こうと思って階段を降りかけたとき、偶然2人の遣り取りを耳にしてしまったのです。

 そのときの会話は……確かこのようだったと思います。


 ――

「あなた、亜由珂の大学進学ですけどね、どうしたらいいんでしょうね」

「どういうことなんだ」

「亜由珂が言うには、進学は嫌だって言うんです。

 理由を訊いても何も答えないんですよ。

 それで、学校のお友達はどうするのって訊いてみると、お友達は全員進学を希望しているって言うんです」

「みんなが希望してるんなら、亜由珂もそうすればいいじゃないか」

「私もそう言ったんですけど……」

「嫌だって言うのか?」

「ええ」

「――」

「どうしたらいいんでしょう」

「どうしたらって、亜由珂のことはすべておまえに任せてあるじゃないか」

「それじゃああなたは、亜由珂の進学についての責任はすべて私にあると言うんですか?」

「違う、そうじゃない。おまえは亜由珂と毎日顔を合わせているんだか、何とか上手く話ができないか、と言ってるんだ」

「けど、あの年頃ってとても難しいんですよ、あなた」

「自分の子供1人くらい面倒見れないでどうする。俺は別に逃げてるわけじゃない。俺だっておまえと同じくらい心配してるさ。

 でも、おまえがなんとかやってくれてると思うから……」

「……」

「どうしてもおまえがだめだと言うんなら、俺が亜由珂に話してもいいが、なんせゆっくり話をしているときがないことくらいおまえもわかってるだろ」

「そうですけど……。でもあの娘は私の言うことなんか訊く耳持たないんですよ」

 私はそのまま部屋に戻ったので、それからの会話はどうなったのかわかりません。

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