第12話 ノート page11
ママは無事に戻った私の顔を見てほっとしたのか、出かける前に見せた顔とはまるで違ってました。
その晩はたまたま帰ってきたパパは、愉しかった3日間を目を細めながら聞いてくれました。
私が夢中で旅行の話をすると、パパはそれに引き込まれたかのように自分の若いときの話をしてくれました。
私は嬉しかった。とても嬉しかった。
パパとそういった時間をもてたことが何よりでした。
パパとの記憶は、私の思い出の中にそれほど多くはありません。
「おまえを連れてよく動物園や遊園地に行ったもんだよ」
と聞かされても、私は全然思い出せませんでした。
かろうじて記憶が残っているのは、そのときに撮ったスナップ写真から、そういえばこんなこともあったのかしらと思うくらいです。
私はどんなところへ連れて行ってもらうよりも、家にいることが少ないパパがそばにいて一緒に話ができるのがいちばん嬉しかったのです。
タバコを燻らしながら話すパパ。
食事のとき、ビールを飲みながら話しかけるパパ。
庭で横に並んで草花を見ながら優しく肩に手をかけるパパ。
毎日パパと一緒にいることができたら……、とよくそう思いました。
しかし、仕事があるから私の夢物語に付き合っている暇はありませんでした。
1日か2日するとまたママと2人っきりの生活が始まり、会話のない冷ややかな日々が続くのです。
そんな生活の繰り返しが嫌で嫌で仕方ありませんでした。
パパの仕事に対して理解をしているつもりでしたが、部屋で机に向かっているとつい独り言が出てしまうのです。
「パパ、なぜ家にいてくれないの? 亜由珂、寂しいんだから……」
もし、私に弟か妹がいたとしたら、きっと気を紛らわすことができたに違いありません。
ひょっとしたら性格まで変わっていたかも……。
パパとママの間は、あれ以来波風が立ってる様子もなく私の目には仲のいい夫婦に映っていました。
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