第9話 ノート page8
そのときの会話はこうでした――。
「……ママ、今度の夏休みにね、私キャンプに行くの、いいでしょ?」
私は笑いながら言いました。
ママは突然のことに驚いた様子で、
「キャンプ?」
手にお皿を持ったまま訊き返しました。
「そうよ。みんなの意見もあるから行き先はまだ決まってないんだけどね」
「女の子だけで行くの?」
「そうよ」
「だめです。ママは許しませんからね」
想った以上にきつい口調でした。
「だったら、パパに訊いてみるから……」
「
いくらパパに訊いても一緒よ」
「どうして? それじゃあ男の子もいれば行ってもいいの?」
「そういう意味で言ったんじゃないわ。
例えば、先生とか父兄のどなたかが一緒に行かれるんならまだしも、
女の子だけなんて絶対反対よ」
「やーだ、私たちもう子供じゃないわ。幼稚園の遠足じゃあるまいし、先生や親と一緒に行けるわけないでしょ」
2人の間に険悪な空気が漂い始めました。
「いいえ、あなたたちはまだ子供よ」
ママは私たちを完全に子供扱いでした。
私はその言葉を聞いて頭に血が昇ってしまいました。
「いくらママに反対されてもみんなと一緒にキャンプに行くわ。
だって私が言い出したプランなんだもん」
「わがままを言ってはいけません。
そんな勝手なことは許しませんよ。もし万が一のことがあったらどうするの」
「やーだ、そんなことあるわけないじゃん」
「そんなことわからないでしょ? 聞き分けのないことを言わないの」
私はその言葉で益々顔の辺りが熱くなるのを覚えました。
「そういうママだって随分勝手なことしてるじゃない」
「勝手なんてしてませんよ、ママは――」
むきになって否定しました。
「じゃあ、あのときのことはどうだって言うの、それじゃああまりにもパパが可哀そうじゃない」
「――」
ママは黙ったままでした。
「あんな若い男の人とあんなことしておいて――」
「あれはママが悪かったと思っていまでも反省してるわ」
「偶然私に見つかったからね、他にも――」
とそこまで言ったとき、ママの掌が私の左頬に飛んで来ました。
ママの不意の仕打ちに気が動転した私は、大声で泣き叫びました。「私は行くわ! ママがいくら反対しても」
ママはしばらくの間黙って私の目を見ていましたが、最後には「勝手にしなさい」とひと言言って背中を向けると、流しで洗い物をはじめました。
ママは泪を流しているようでした。
私はその姿を見ても計画を取り止めようとは思いませんでした。
私が計画を立てたと言うこともあるのですが、行けるのはその年くらいしかなかったんです。
夏休みが終われば受験戦争の真っ只中に身を置かなければなりません。
おそらくみんなも同じ考えだったと思います。
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