第2話 ノート page1

 パパ、ママ、ごめんなさい。


 私はいま、自分の気持をこんなふうにしか伝えることができません。

 パパやママの顔を見ながらでは、

 おそらく自分の思っていることの半分も話せないと思うからです。

 これは、私自身の気持を整理するために書き記したものです。

 決して感傷的な気持でペンを執ったのではありません。

 このメッセージは、ぜひパパに読んでもらいたくて書きました。

 どうか最後まで読んでください……。



 私は、23年前にこの北嶋の家に長女として生まれました。

 はじめての子である私にパパやママが注いでくれた愛情は、幼い私にでもよくわかりました。

 パパやママは、私が欲しがらなくてもいつも高価なオモチャを買い与えてくれましたね。

 でも、私はそんな高価なものよりも、近所の友達が持って遊んでいる化粧ビンの蓋とか、缶詰の空き缶のほうがよほど嬉しかったのです。

 ママに無理を言ってまだ中身の残っている化粧水の容器をもらったときの嬉しさは、いまでも忘れることができません。

 近所の友達と同じようにして遊べることがたまらなく嬉しかったのです。

 私は早速その容器に水を入れたり出したりして遊びはじめました。

 底のほうに少し残っていた化粧水が水で洗い流されたときのあのほのかな香りは、いまでもはっきりと覚えています。


 6歳の夏でした。

 私は、近所の4つ年上の男の子を〝お兄ちゃん〟と呼んで、いつも後について遊んでいました。

 私はお兄ちゃんが大好きでした。

 なぜかというと、私はひとりっ子だったので、近所の子が兄弟で愉しそうに遊んでいるのを見ると、

 羨ましくて仕方なかったのです。


 あるとき、ママの体の弱いことも知らないで、「妹か弟が欲しいから赤ちゃん作って」と真剣に頼んだことがあります。

 でもママは「そうね、そのうちにね」と言ったきりで、

 いつまで待ってもプレゼントはありませんでした。

 それ以来、ずっとそのことばかり考えるようになりましたが、

 こればかりは私の思うようには行きませんでした。そのお兄ちゃんと水遊びをしていたときです。

 お兄ちゃんは昆虫採集に使う注射器に水を入れ、水鉄砲のかわりだと言って、勢いよく水を跳ばして見せてくれました。

 その注射器がめずらしくてお兄ちゃんにねだってそれを借りた私は、お兄ちゃんと同じようにやってみます。

 最初はなかなか上手にできなかったのですが、何回かするうちに放物線を描く水の糸を簡単に拵えることができるようになりました。

 そのときはその注射器がそれほど危険なものとは思えませんでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る