【8】櫻の根元に在るものは

「……許さない」


 人気のない、午後の氷ノ山神社の境内に、一人の少女が佇んでいた。

 腰まである、濡れた鴉の羽のような艶やかな黒髪を、櫻の花びら混じりの風に揺らしながら、彼女は眼下に広がる街を冷ややかに眺めている。


 鏡華。

 それが彼女の名だった。

 石灯籠に背を預け、鏡華は呟く。


「せっかくあの娘を遠ざけてあげたのに――。どうして貴方は、余計なことをするの?」


 数瞬、目を閉じ、再び開いた時には、虚ろだった瞳に妖しい光が宿っていた。

 鏡華は境内に敷き詰められた白い玉砂利を踏み、参道の御影石を歩き、鳥居をくぐる。ふう、と小さく息を吐くと、彼女は百の花びらとなり、散ってしまった。

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