17

 萌は時間ぎりぎりまで、このオカルト研究会の部室で時間を潰そうと思った。

 そして、最初の章を読み終えて、もう、そろそろ帰ろうかな? と思っていたときに、不意に(また)萌の背後にあるオカルト研究会の部室のドアが開いた。

 驚いて後ろを振り返ると、そこには、今日は部活動をお休みしたはずの、……新谷翔くんがいた。

 ……久しぶりに、新谷くんの顔を見て、萌の鼓動が、とくん、と上がった。

「早川さん」

 部室の中で一人、本を読んでいる萌を見て新谷くんがそう言った。

「新谷くん。どうかしたの?」

 驚いた表情をうまく隠しながら、萌は言った。

「今日は、部活お休みじゃないの?」

「いや、帰ろうとしたら、オカ研の部室の窓が空いているのが、見えたから」

 そう言いながら、新谷くんは部室の中を移動して、いつもは葉摘が座っている、スチールの椅子の上に座った。


 すると、静かな部室の中には、新谷くんと萌の二人だけになった。

 萌はなんだか不思議な気持ちがした。

 みんなが朝日奈くんの家に移動して、萌が部室の中に一人残る。すると、そこに新谷くんがやってくる。萌の鼓動がとくんと上がる。

 ……なんだか都合のいい、おとぎ話のようだと思った。


「新谷くん。もう帰ったんじゃなかったんだ」萌は言う。

「うん。友達と図書館で勉強してたんだ。受験勉強」新谷くんは言う。

「そうなんだ。えらいね」

 萌は言う。

「早川さんも、成績すごくいいのはわかるけど、オカルト研究会にばっかり出てる場合じゃないよ。まあ、早川さんなら、大丈夫だとは思うけどさ」

 大丈夫? ……私はなにが大丈夫なのだろう? と萌は思う。

「うん。頑張る。でも、ばっかりって、今日、初めてだよ。部活動に参加したの。入部したのだって、つい最近だし。新谷くんも知ってるでしょ?」萌は言う。

「でも、これからも出ようと思っているでしょ?」

 とため息をついて、新谷くんは言う。

 その新谷くんの言葉を聞いて、すごい。どうしてわかったんだろう? と萌はすごく不思議に思った。

 そんな萌の驚きが表情に出ていてしまったのか、新谷くんは「早川さん。なんだかすごく楽しそうだったから」と萌に向かってそう言った。

 それから無言でいる萌に向かって、新谷くんはにっこりと、優しい顔で笑って見せた。

 それから、『本日の下校時間になりました』と言う放送がかかった。

 時刻は完全な下校時間の時刻となり、二人はそれから一緒に、郡山第三東高等学校から、下校をすることにした。

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