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 下校前に職員室にオカルト研究会の部室の鍵を届けに行くと、そこにいた鈴谷林太郎先生は、鍵を届けにいた萌と新谷くんの姿を見て、「これは珍しい組み合わせだね」と優しい声でそう言った。

 鈴谷林太郎先生は二十代後半の若い先生で、メガネをかけていて、そのちょっと頼りない性格と、でも、優しいものいいと性格、それから可愛らしい顔立ちをしていたので、結構女子生徒に人気のある先生だった。

 萌はその鈴谷先生の優しい声が、好きだった。

「確かに鍵は預かりました」

 鈴谷先生が言う。

「あの、先生もオカルト研究会の実験には立ち会うんですか?」

 萌は聞いてみる。

「もちろん。監督者として、あるいは保護者としてかな? 立ち会うよ。オカルト研究会の部員のみんなは、歴代、問題ばかり起こすんで有名だからね」と鈴谷先生は言った。

 ああ、だからみんな顧問をやりたがらないのか。と萌は思った。


「でも、それだけ本気で、真面目だっていうことだからね。それは悪いことじゃないよ。僕の仕事は、みんなの意識をしていない問題、あるいはその注意点を指摘して、みんなを怪我や事故から守ることだからね」と鈴谷先生は言った。

「ライ麦畑のキャッチャーみたいですね」と新谷くんが言った。

「そういうわけじゃないけど、みんなここの郡山第三東高等学校の生徒たちは、頭が良くて、真面目な生徒たちばかりだけど、それでもやっぱり『子供』であり、『子供とは保護される対象』だからね。あ、子供を馬鹿にしているわけじゃないよ。子供という言葉の定義が、そもそも、保護されるべきもの。なにかにしっかりと守られるべきもの、と言う意味だ、と言うことだね」

「……はい。よくわかります」

 萌は言った。

「うん」嬉しそうににっこりと笑って鈴谷先生がそう言った。

 それから二人は職員室をあとにした。


「相変わらずいい先生だね」新谷くんが言った。

「うん。本当に、そうだね」萌は言う。

 本当にそうだと思った。

 鈴谷先生が参加するのなら、UFOを呼ぶ実験も、もっともっと、思っていた以上に、楽しくなりそうなイベントになるかもしれないな、と萌は思った。

(それから、そんなにみんなとの実験を楽しみにしている自分の気持ちを感じて、萌は、いけない、いけない、とその気持ちを自重した)

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