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「そうだよ。萌。別に無理しなくてもいいよ」

「いや、もちろん無理にとは言わないけどさ、二人ともひどくない?」葉摘と硯に向かって朝日奈くんが言う。

 二人が萌に気を使ってくれているのは、別に朝日奈くんの家にいくことがどうこうと言うことではなくて、萌は郡山第三東高等学校の中で結構有名な(色々な意味で)美人の女子高生で、家が裕福で、力があり、しかも早川神社の巫女の家系にあり(早川神社に婿入りした萌のお父さんのお父さん、つまりおじいちゃんが富豪の家系の人だった)、最近、オカルト研究会に入部したりとかして、……それも、萌にはもともと悪い噂があって、ということで、あんまり波風を立てるようなことは無理にしなくてもいい、という考えだった。

(郡山第三東高等学校の有名人、早川萌が男子生徒の家にお邪魔するというのは、新聞部が東高校内新聞の一面の記事にしてもいいくらいの、この平和で平凡な田舎の街においては、大きなニュースだった)

 ちなみに、萌は男子生徒の家にお邪魔するという経験を、今まで一度もしたことがなかった。(だから、ちょっと男の子の部屋に興味もあった)

「まあ、でも無理にとは言わないよ」

 と、朝日奈くんは急に真面目な表情になって、笑顔で、萌にそう言った。

「ううん。そういうんじゃないんです。私も朝日奈くんのお家にお邪魔してみたいです」と萌は言った。

「でも、今日はちょっとほかにやりたいことがあって」

「やりたいこと?」

「はい。実は、この『オカルト研究会の部室の中』を、少し見学したんです」と萌は言った。

「この部屋の中を?」朝日奈くんは言う。

「はい。……だめ、ですか?」萌は言う。

 ちょっと顎に手を当てて、なにかを少しだけ考えてから、「……ううん。別にだめじゃないよ」とにっこりと笑って朝日奈くんは萌に言った。

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