「初めまして。早川先輩。私は野田葉摘って言います」

 ずっと文庫本を読んでいた女子生徒が、文庫本を閉じて、萌の顔を見てそう言った。

「初めまして。早川萌です」

 萌は答える。

「これから、よろしくお願いします。先輩」

 葉摘は言う。

 どうやらこのオカルト研究会の部室の中に足を踏み入れたことによって、すでに萌はこのオカ研の一員として、すでに葉摘に認識されているようだった。(まあ、名前だけでもいいという条件なので、硯にはまだ正式な返事はしていなかったのだけど、それでも別に構わない、と萌は思っていた)

 人工の光に混ざって窓から差し込んでくる、少し赤色に変化した太陽の光が、葉摘のかけている縁のないメガネのレンズに反射して光っている。

 葉摘は硯と同じ耳の見えるくらいの、短い髪をしていて、顔立ちは人形のように可愛らしい顔立ちをしていた。

 閉じられた弥生の文庫本のタイトルには、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』の文字があった。

「よろしく。野田さん。あなたは二年生?」

 萌はそんな葉摘のあまり変化のない表情を見ながら言う。

「そうです」葉摘は答える。

 それから二人は握手をした。

 手を差し出したのは、萌からだった。


「二年生なのに私のこと、知ってるんだ」

「はい」

 葉摘は言う。

「だって先輩は、すごく美人な先輩っていうことと、あとそれから、そのこと以外にも、『いろんな意味で有名な人』ですから」と言って、葉摘は今日初めて、ちょっとだけ口角を上げて、にっこりと笑った。

 萌はその言いかた(と、あと笑顔)に大人気なく少しだけむっとしてしまったのだけど、そのあとですぐに、その自分の悪い噂を隠さないで本人にいう、と言う葉摘のことが、結構気に入った。(あと可愛いし)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る