「残念だよね。新校舎。私たちは運がない」

「うん。そうだね」

 硯の言葉に萌は小さな声で、そう答えた。


「お邪魔しまーす」

 とんとんとノックもしないで、硯は三階の一番東の隅っこにあるオカルト研究会というプレートが貼ってある、オンボロのドアを開けた。

 見た感じは普通のドア。(萌はもっと、いろんな胡散臭いものや異国情緒が漂うものがたくさんドアの近くに置いてあるとか、あとドアにお札が貼ってあるとか、そういうことを予想していた)

 でも、オカルト研究室の部室の中はそうではなかった。

 危なく、結構普通だね、と言いかけて、萌はその言葉を止めた。

 まず、オカルト研究会の部室の中はほとんどが、(萌の嫌いな)闇で覆われていた。窓はあるけれどほとんと開いていない。黒いカーテンがかかっているようだ。光はその隙間から、少しだけ部屋の中に差し込んでいる。電気はつけられていない。

 部屋の壁際には本棚か、もしくは普通の棚のようなものがあって、そこには本や資料、それからよくは見えないけど、いろんな、いわゆる『胡散臭い異国情緒の溢れたものたち』が置かれているようだった。

 部屋の真ん中にあるテーブルの上には水晶玉。そして、そのテーブルにはちゃんと悪霊退散の文字が書かれているお札が貼ってあった。

 どうやら、きちんとこの廃部寸前のオカルト研究会は、真面目に活動をしているようだった。

 それらの光景を見て、「はぁー」、と萌は本当に深いため息をついた。

「なにため息ついてんの。あ、電気つけるよ」

「いいよ」

 硯の言葉に男子生徒が答える。

 テーブルのところには二人、生徒が座っている。ぼんやりとその姿が、闇の中に確認できる。

 今、声を出したのは奥に座っている男子生徒。

 そして、その九十度こちら側の席にはもう一人、薄暗い闇の中で、黙ってなにかの文庫本を読んでいる女子生徒の姿があった。

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