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そうやってしばらくバスに揺られて、遊園地へと到着する。
朝早くに出発してきたためか、まだ、人はそこまで多くはいない。そのためかすぐに一日フリーパスを購入することができた。
「行こう」
フリーパスを持った彼が、手を差し出してくれる。
その手を握って、私は彼とともに、遊園地の門をくぐった。
‡
遊園地の中に入ると、そこそこ人がいた。券売コーナーに人があまりいなかったのは、単純に、既に券を購入して入っていたためだったらしい。
だが、それでも各アトラクションで並ぶにしてもそんなに並ばなくてもいいくらいの人の数だった。正直に言って、それはありがたい。
「まずは、どれに行く?」
中に入って、彼がまたパンフレットを開きながら問いかけてくる。
横から、少し高い位置で開かれたパンフレットをのぞき込み、今の位置を考えながら、アトラクションを考える。
「ここからなら、ジェットコースター近いんじゃない?」
「初っ端からジェットコースターか……。よっし、来い!」
今の場所から一番近く、ぱっと見そこまで並んでいなさそうな、ジェットコースターを選ぶ。彼はジェットコースターが得意ではないのか、少し大きな声を出して気合を入れていた。
そんな彼の手を引いて、ジェットコースター待ちの列に並ぶ。と言っても、そんなに並んでいるわけではないから、比較的すぐに順番が来るだろう。
事実、待った時間は十分もなく、比較的すぐに順番が来て、係員の人に誘導される。その際、席の希望を尋ねられたため、一番前を希望した。彼が怯え腰になった。
「動かないと邪魔だから、行こうか」
彼の手を引いて、一番前の席へ向かう。すぐに、そこにいた別の係員さんが、ベルト等を付けて、弛んでいないか等を調べてくれる。それから少し待っていると、席が埋まったのか、少しずつ動き始めた。
まずは、上っていく。さすがにそれは、ゆっくり。少しずつ、少しずつ高い場所へと移動する。視界が開けて、とても気持ちがよかった。
だが、それからすぐに――――
ぐっ、と身体にかかる重圧。
一気に下り始めたのだ。かなりの速度で動くため、風が顔を切っていく。景色が、すごい速度で変わっていく。それは、とても素晴らしい。
―――ザザッ
だが、その最中に、何か変な音。よくわからないノイズが耳に届く。何の音かはわからない。一瞬だったので、そこを通るときに、何かあったのかもしれない。
そんなことを考えている間にも、ジェットコースターは、またも上へと向かう。そして下った先には、トルネードもかくやというほどに円状に曲がりくねったコースがあった。
また、重圧がかかる。
ぐるんぐるんと回って、上へ、下へ、右へ、左へと身体が揺さぶられる。
今度はよくわからないノイズはない。だから、さっきの一度だけのことだったのだろう。そう考え、これからのジェットコースターの動きを楽しむことにした。
コースを一周し、スタート地点へ戻ってくる。係員がベルト等を外し、私たちはおりていく。……彼は、よほど疲れたのか、少し足下がふらついていた。
「大丈夫?」
「あ、ああ……。君こそ、〝大丈夫〟か?」
「うん? 大丈夫だけど」
「なら、いいよ。さ、次はどこに行く?」
そんな彼に、つい、大丈夫かと声をかけると、彼からも何故か大丈夫か尋ねられる。……どう見ても、私は大丈夫で彼のほうが大丈夫ではないのだが。
「ベンチを探して、少し休もうか。何か飲み物買ってくるよ」
「俺も……」
「いいから座ってて」
「ごめん」
だから、彼を休ませることを選ぶ。少しふらふらしながらも、次のアトラクションへ行こうとする彼の手を引いて、ベンチに座らせる。そして見える範囲に自動販売機を見つけたので、そちらへ行こうとすると、彼もついてこようとした。ので、また座らせる。
そして財布だけを持って、自動販売機へ向かう。………そういえば、彼はどのような飲み物が好みなのだろうか。わからないので、適当に、お茶と紅茶を買って戻る。
「どっちがいい?」
「じゃあ、お茶をもらう。ありがとう」
どちらが好みか確認し、彼が選んだお茶を渡して、私も紅茶のボトルを開けて、口に含む。無糖の紅茶の香りが鼻を通り抜けていく。
「冷たいもん飲んだら、少しすっきりした。もうちょっと休んだらまた動くか」
「大丈夫?」
「ああ。次は何がいい? またジェットコースターって言うのは無しな」
「ちっ」
「……またやるつもりだったな」
「途中、何かよくわからないこと考えちゃって、しっかり楽しめなかったんだもの」
「……せめて、また別のやつで遊んだ後でな。連続はつらい」
「了解」
冷たいものを飲んで、少しすっきりしたらしい彼。事実、顔色もさっきよりマシになっている。そのためか、もう動こうとしていた。もう少し休んだ方がいいと思うのは私だけだろうか。
そう思い、彼が嫌がるようなことを告げる。〝もう一度ジェットコースター〟。もちろん、彼は嫌がった。だが、本気で嫌がっているわけではないようで、他のもので遊んだ後、と告げる。
さて、じゃあ、もう少し時間をかけて次のアトラクションを選ぼう。そうすれば、ベンチで休んでいられる。彼を休ませられる。
「えっと、バスの中で行きたいって言ってたの、なんだった? ここから一番近い奴から行こう」
それからは、思い出せないふりをしながら、彼と話す。正直に言うと、行きたい場所でここから一番近いのは、ミラーハウスだ。自分の姿が映り、それがさらに違う鏡に映り――いろんな意味で幻想的な景色を作り出す。そんな、不思議な光景が好きだった。
そうしてしばらく休んで、ようやくベンチから立ち上がる。そしてまた彼と手を繋いで、ミラーハウスへと向かう。
ミラーハウスは、幸い待ち時間はなく、すぐに入ることができた。
「う、おぉ……」
入ってすぐに、映る自分の姿に彼が慄く。だが、この程度で慄いていては、進めない。針路に沿って、彼と手を繋いでゆっくり歩いていく。
私たちが動くたびに、鏡に映る景色は変わる。私たちがそのまま映っているもの、私たちの服の色だけが映って、それがいろんな鏡に映されて原型を失くし、幻想的な景色に変わっているもの。見ていて飽きない。私がほんの少し動くだけでも、その幻想的な景色は別のものに変化する。それが、楽し――
――ザザザッ
また、ノイズ。
頭を振って、ノイズを吹き飛ばす。
「どうした?」
彼が心配そうに尋ねてくる。私は笑顔で、
「大丈夫」
としか、言えなかった。
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