夢の終わり

真紅


 気づいたら、街に、一人立っていた。

 いつもの格好、いつもの荷物。

 それなのに、何故、こうやって立っているのかわからない。

 私がぼうっと立っている間も、周りを人が次々と行きかいしていく。

 私は何のために、ここに立っているのだろう。わからない。


「すまない、待たせたか」


 そうしていると、一人の男がこちらへやってくる。

 知らない人だ。そのはずなのに、私は無意識に彼にこう答える。


「大丈夫」


 私が言うと、彼は顔をくしゃっと歪ませながら、笑う。


「とか言って、結構待ってたんだろ。悪かった」


 その表情は本当に悪いと思っているようだった。

 そんな彼に、私は軽く微笑みながら告げる。


「だから、大丈夫だって」


 誰なのか、今も、よくわからないのに。


「悪かった。じゃあ、行こうか」

「うん」


 だが、私が言うと彼は微笑み、そして手を繋いで歩き出す。

 私の中で、どこに行くかわからないのに、私の歩みに迷いはない。それが不思議だったが、何故だか、それ以上は考えられなかった。ただ、彼と出かけるのだという考えだけに、頭の中が染まる。

 そうやって手を繋いで、バスに乗る。もちろん、二人掛けの席に一緒に座る。

 座ったところで、彼がかばんから何かを取り出す。―――パンフレットだった。


「何に乗りたい? 先に、簡単にでもコースを決めよう」


 見せられたのは、遊園地のパンフレット。

 ああ、そうだ。今日は彼と遊園地に行く約束をしていたんだっけ。ぼんやりした頭で、そう考える。

 少しぼうっとしつつ、彼の差し出すパンフレットを見ていく。……昔行った時よりもアトラクションが増えていた。


「ジェットコースターは乗りたいよな。それと、観覧車?」

「観覧車はシメじゃない?」

「了解。じゃ、その前にいろいろ回らないとな」


 パンフレットを見ながら、二人でどう動くかを決めていく。

 ジェットコースター、メリーゴーランド、お化け屋敷、バイキング、ウォーターライド、フリーフォール。いろいろと眺めていく。


「さすがにメリーゴーランドは恥ずかしいんだけど」

「いいじゃないか、せっかくだし。一緒に乗るか?」

「それはさらに恥ずかしい」

「ははっ。じゃあ、メリーゴーランドはなし。その分、何か乗りたいものはある?」

「……ミラーハウス」

「わかった。じゃあ、ミラーハウスは確定だな」


 だが、さすがにこの歳になってメリーゴーランドは恥ずかしい。私が言うと、彼は楽しそうに笑う。どうせ、乗るとしても彼は乗らず、私だけだろうに。

 そう思っていると、まさか、一緒に乗るなどという意見がやってきた。それはますますもって恥ずかしい。

 正直に告げると、彼は悪戯っぽく笑う。さすがに冗談だったらしい。つい、彼を恨みがましく見てしまうが、仕方のないことだろう。彼は笑ったままだし。

 まあ、さすがに冗談だったらしく、メリーゴーランドには乗らないという言質が取れたのでいいことにする。それに、私の行きたいところにも行けそうだ。

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