第三十八話 「出陣」

「おはようでおじゃる」

 麻呂が言うと様々な声音の挨拶が返ってくる。

 新生エルヘ円卓の騎士団の面々に、レイチェルに、カーナギスだ。

 麻呂が一番最後に目を覚ましたらしい。

 神殿の外でザンデとリシェルが共に片手剣を打ち合い、ライナとグシオンも素振りし鍛錬している。

 これは、麻呂も負けてられないでおじゃるな。

 気合十分の円卓の騎士団を見て麻呂の心は静かに燃えたのだった。

 再び侘しい朝食を取り、一同は出掛ける準備をする。

「皆さん、ちょっと円卓の後ろに並んでいただけませんか? すぐに戻ります」

 カーナギスがそう言い神殿の外に出て行く。

 面々が顔を見合わせつつ言われた通り円卓の後ろに並んだ。

 するとカーナギスは画材一式を用意して再び現れた。

「新たなエルヘ円卓の騎士団の結成を記念して私に絵を書かせて下さい」

 神殿の守り人カーナギスが言った。

 レイチェルが列を抜けようとするとカーナギスが止めた。

「レイチェルさんも入って下さい」

「いいえ、ここは円卓の騎士の皆さんがだけが描かれるべきだわ」

 レイチェルが固辞するとライナが声を上げた。

「そんなことないですよ、レイチェルさんも入って、入って!」

 麻呂も同じ気持ちだったので続けて言った。

「レイチェル殿は、言わば円卓の騎士団の導き手でおじゃる。我らが恩人でおじゃるよ。麻呂とライナだけでは到底ここまで辿り着けなかったでおじゃる。是非とも一緒に描かれて欲しいでおじゃります」

 二人の強い要望を受けてレイチェルは微笑んだ。

「ありがとう。嬉しいわ」

 レイチェルは再び列に加わった。

「ではしばらくそのままでお願いしますね」

 カーナギスが羽ペンをインク瓶につけ、絵を書き始める。

 十分ぐらい経つとカーナギスは言った。

「ありがとうございます。下書きはばっちりです。皆さんが再び戻ってくるときはこの絵に色がついているでしょう。題はもう決めました。そのままで捻りは無いですが、新生エルヘ円卓の騎士団とその導き手です」

「良いと思います」

 ライナが笑顔で言った。

 それから面々は準備に入り、出立しようとした。

 だが、一足早くレイチェルが出ることになった。

「レイチェルさん、見張り台の人達を埋葬するって言ってましたけど、穴を掘る道具はどうするんですか?」

 見送りに出るとライナが尋ねた。

「ドワーフのグラッツさんを訪ねようと思うの。スコップを打って貰うつもりよ」

「なるほどでおじゃる」

 麻呂は納得しつつ言った。

「余計なお世話かもしれぬでおじゃるが、野生のセキジンにだけは気を付けるでおじゃりますよ」

「ありがとう麻呂君。その時は素直に逃走するわ」

 レイチェルは微笑んだ。

「それじゃあね、お互いの幸運を祈りましょう」

 そう言うとレイチェルは歩み出した。

「レイチェルさん……」

 ライナが悲し気に呟いたので麻呂は言った。

「また会えるでおじゃるよ。そのためにも魔人ディアブロを早々に斃してしまおうでおじゃる」

「うん、そうだね」

 幾分元気が出た様にライナが応じた。

 新生エルヘ円卓の騎士団も準備を終え、神殿の外に並んだ。

 守り人であり神官のカーナギスが洗礼の言葉を述べて一行を祝福してくれた。

「皆さん一人も欠けることなく戻って来て下さいね」

 カーナギスが言った。

「完成した絵が見たいから絶対みんなで戻って来ます」

 ライナが元気よく応じた。そして麻呂のわき腹を肘でつついた。

「おじゃる?」

 すると他の円卓の騎士の面々も麻呂を凝視し何かを訴え掛けている。

 麻呂はようやく意図を悟ったが、戸惑って尋ねた。

「麻呂で良いのでおじゃるか? ここは一番年齢の高い者が適役だと思うでおじゃるが……」

「そうなると、たぶん兄貴だけど。兄貴ってリーダーって柄じゃないじゃん。体力無いし、剣を見る目も無いしさ」

 ライナが言った。

「うるせぇな。だが、俺も自分で適役では無いと思うぜ。ここまで来たのは麻呂とライナだろう。二人のどっちかがリーダーになるのが自然じゃないか」

「確かにザンデ殿の言う通りですね」

 リシェルが応じる。

 するとザンデはやや顔を赤らめて咳払いした。

「だがライナは、昔から馬鹿みたいに明るいが、そそっかしい。だったらリーダーは麻呂、お前に絞られる」

「馬鹿で明るい上に、そそっかしくて悪かったわね」

 ライナが軽く頬を膨らませて言った。

 麻呂は多少緊張を覚えながら面々を見渡した。

「麻呂は成人したての未熟者でおじゃる。それでも良いでおじゃるか?」

 するとバシリと背をライナに叩かれた。

「アタシも麻呂だったらリーダーに適役だと思うよ。このライナちゃんが言うんだから間違いないわよ。グシオンはどう思う?」

「皆の意見に賛成だ」

 戦斧を担ぎ兜を被った端麗な顔がそう述べた。

「ほらね」

 ライナがウインクする。麻呂は再び円卓の騎士達を見て、その目が不動のものだと知ると頷いて、声を上げた。

「では不肖、この麻呂がリーダーとして音頭をとらせてもらうでおじゃる。新生エルヘ円卓の騎士団、いざ出陣でおじゃる!」

「おおう!」

 静かな森の中に若く勇猛な声が集い轟いた。

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