第三十七話 「目覚めし力」
木のゴーレムモクジンと、石のゴーレムセキジンは神殿の前方にうようよと押し寄せていた。
その数は百ぐらいだろうか。この機会に円卓の神殿を壊すつもりで現れたのかは分からないが、多大な脅威だった。
麻呂達、五人の円卓の騎士とレイチェルは神殿の入り口から飛び出し、敵達と対峙したのだった。
「何て数だ」
ザンデが驚愕の声を上げる。
「ブランシュの敵討ちかしらね」
ライナが背中から剣を引き抜いて言った。
「そうかもしれないでおじゃるな」
五人の円卓の騎士とレイチェルは一斉に身構えた。
それが合図だったのか。
「ヌヴォー」
雑多な得物を手にしたゴーレム達が襲い掛かって来た。
「石のゴーレムはアタシに任せて」
ライナはそう言うとセキジンの群れの中へ勇敢に特攻していった。
「ライナさん!」
リシェルが声を上げる。
「麻呂達は木の方のゴーレムを相手にするでおじゃるよ。そして早く片付けてライナの救援に赴くでおじゃる!」
麻呂を先頭に残る円卓の騎士とレイチェルはモクジンどもとぶつかった。
居合が、白刃が戦斧が煌めき次々モクジンどもを葬ってゆく。
麻呂は僅かな隙を窺ってライナの様子を確認した。気合一閃セキジンどもを鬼の様に彼女は打ち壊していた。
「ライナが心配だ。何でアイツ一人に向こうを任せたんだ?」
紫色の髪を振り乱し、ザンデが荒い呼吸をしながら麻呂に尋ねた。
「あの石のゴーレムはとにかく固いでおじゃる。麻呂の居合も通用しなかったのでおじゃるよ」
「ちいっ、だからと言ってアイツ一人にあれだけ任せられるか! 俺のドワーフが打った剣なら奴らを粉砕できるはず!」
ザンデが戦列を離れ、ライナの元へ加わった。
木のゴーレム達が猛威を振るう。麻呂は刃を放ちながら必死の思いで叱咤激励し、皆を励ました。
リシェルの剣が、グシオンの戦斧が、レイチェルの二刀流がその声に応えて敵を殲滅していく。
ようやく粗方のモクジン片付いたが、セキジンの方は未だに多く残っていた。
あいつらに麻呂の刀は通用しなかった。しかし、ライナとザンデが戦っている。と、ザンデの振るった剣がセキジンにぶつかり儚い音を上げて圧し折れた。
「そんな馬鹿な! ドワーフが打った剣だぞ!?」
ゴーレムどもの追撃を避けながらザンデが言った。
「今こそ助けに行くでおじゃる!」
麻呂が声を上げ駆けると、リシェルとグシオン、レイチェルが続いた。
「くそぉっ、ヴァロウの伯父貴に借金してまで手に入れたってのに!」
ザンデが折れた剣を見て言った。
「また偽物掴まされたんじゃないの? はい、これ」
戦いの最中、ライナが従兄に差し出したのは、あのドワーフの隠者が打った剣だった。
「これは正真正銘ドワーフの打った剣よ。あのおじいさんの見た夢が当たってたわね!」
ザンデは剣を受け取った。
そして石のゴーレム、セキジン目掛けて一撃を放った。
通用しないだろう。駆け付けながらも麻呂は思ったが、何と、ザンデの一撃はセキジンを真っ二つにしたのであった。
「何だ、斬れるじゃねぇか」
ザンデが言った。麻呂は驚愕しながら追いついて新手に居合を放った。
すると石のゴーレムは胴から粉砕され動かなくなったのだった。
「麻呂達の攻撃も通用するみたいね」
ライナが言った。
「そのようでおじゃるな」
リシェルも、グシオンもセキジンを打ち壊したが、レイチェルの一撃だけは通用しなかった。
「円卓の騎士の皆だけに与えられた力なのかもしれないわね」
レイチェルが言った。麻呂が代わりにゴーレムを斬った。
「私は残った木の方を片付けるわ」
レイチェルが合流しようと迫るモクジン達の前に立ち塞がり二刀流を振るった。
「ううおおおおっ!」
グシオンが咆哮を上げながら薙ぎ払った一撃は多くのセキジンを破壊した。
リシェルの俊敏な剣術は着実に敵を打ち壊してゆく。
全員の獅子奮迅の活躍でゴーレム達は全て木っ端と石ころに成り果てた。
「よーし、いっちょう上がりね!」
ライナが言った。
「おじゃるな」
麻呂が頷き、リシェルとグシオンが、レイチェルも頷く。が、ザンデだけは肩を上下させ荒い呼吸を繰り返していた。
「兄貴、お疲れ。相変わらず体力無いね。修練サボってるでしょ?」
「うるせぇ、片付いたんだから良いだろう」
従妹の言葉にザンデはそう返した。
「それにもともと我がクライム家は――」
「偽物ですね」
ザンデの言葉を遮ったのは、リシェルの声だった。銀髪の戦乙女はザンデの折れた剣を手に取り眺めながらそう言った。
「何!?」
「ザンデ様と申されましたね。これは精巧に作られたドワーフの業物に似せられた偽物です」
「ううっ」
リシェルが言うとザンデは頭を抱えた。
「二回目だし、兄貴の目が節穴ってことが判明したね」
ライナが笑いながら言うとザンデはますます頭を抱えたのだった。
「そんなことありません。ちょっと鑑定眼に優れた方でも騙されるほどの逸品です」
リシェルが真顔で言うと微笑んだ。
「ザンデ様の鑑定眼は別に節穴ではありませんよ。むしろ磨きを掛ければ更に良き鑑定眼をお持ちになられるでしょう」
するとザンデは顔を赤らめてリシェルを見た。
「そうかい、あ、ありがとよ」
そう言うと、剣の残骸を受け取った。
「始まったな」
グシオンが平常通りの冷静な顔でそう呟いたのが麻呂には聴こえたのだった。
二
神殿に再び強力なエルヘ結界が張られ、一同は今晩はここで過ごす事になった。
料理は侘しいものばかりだったが、麦酒があり、ライナは御機嫌になって飲み干していた。
すると食事の最中、レイチェルが唐突に尋ねてきた。
「麻呂君、ライナちゃん、もう森歩きの方は慣れた?」
「うん、目印を見付けて追ってくだけだもん。カーナギスさん、ディアブロのいる迷宮まで印は続いてるんですか?」
「ええ、そうですよ」
神官であり、この円卓の神殿の守り人カーナギスは頷いた。
「だったら大丈夫だけど、どうして?」
ライナが尋ねるとレイチェルは応じた。
「今までだってそうだったけれど、今後、私の力では皆の足手纏いにしかならない。そう思うのよ」
「そんなことないですよ、ねぇ、麻呂?」
「そうでおじゃるよ」
二人は思うままに言ったが、レイチェルは頭を振った。
「いいえ、レイチェルさんの言う通り、ディアブロに通用するのは選ばれた円卓の騎士の力のみです」
カーナギスが言った。
「他の方が行っても、厳しいことをいいますが、大した助けにはならないでしょう。逆に力不足のために大切な円卓の騎士の誰かが犠牲になるかもしれない。レイチェルさんもそうお思いなのでしょう?」
「ええ、カーナギスさんの言う通りです」
レイチェルは頷いた。
「ここまで来ておいて無責任だけど、私はここでパーティーを外れます。私がいないと不安?」
レイチェルは麻呂とライナを交互に見ながら尋ねた。
「そんなことはないですけど……」
「麻呂もそうでおじゃるが……」
突然のことなので麻呂の心は煮え切らなかった。だが、セキジンにレイチェルの一撃は通用しない。彼女がもしも自分達の強い要望で同行し、セキジンのような自身の攻撃の通用しない相手を前に、怪我を負ったり死んでしまっては元も子もない。
「大丈夫、あなた達、円卓の騎士団なら必ずディアブロを斃せるわ。ザンデさん、リシェルさんも、グシオンさんも、実力の方は先程の戦いでしっかり見させてもらったから、だからこそそう言えるのよ。後はあなた達選ばれた五人で十分。足手纏いにしかならない私は見張り台のエグダートさん達の遺体を埋葬しながら、みんなの幸運を祈らせてもらうわ」
レイチェルが微笑み、麻呂には彼女の決意が固いことを悟らせた。
「レイチェル殿、今までありがとうでおじゃりました」
麻呂が言うとライナが続いた。
「レイチェルさん、アタシからも、本当にありがとうございました」
「こちらこそ、二人と冒険できて本当に楽しかったわ」
二人がこれまでの礼を述べるとレイチェルはそう応じたのだった。
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