第三十六話 「新生エルヘ円卓の騎士団」
魔人ブランシュを斃し、その亡骸を担いで消えた魔人ディアブロを見送ると、途端に一同は地に突っ伏した。
いきなりの首領ディアブロの出現で、無意識の内に雷で痛めた身体を酷使していたらしい。
レイチェルも途端に気を失い、麻呂もまた身体中に未だに回り続ける雷撃の前に意識が混濁し抗うすべもなく倒れてしまった。
ライナの顔がこちらを覗き込み、何かを言っていたが、何を言っているのか分からなかった。そうして麻呂の意識は闇の中へ落ちていったのだった。
二
固いところに寝かされている。
麻呂が目を覚ますと、そこは円卓の間だった。
「麻呂、おはよう」
ライナが声を掛けて来た。
「ライナ、麻呂は一体?」
尋ねておきながら思い出す。魔人ブランシュの魔剣の稲妻の残存する痛手のせいで気を失ってしまったことをだ。
麻呂は起き上がる。背中が痛いのは石の上に寝かされていたからだ。それでも一応、毛布は敷かれていた。
「あの三流魔人の雷のせいよ。みんな倒れちゃうんだもん、運ぶの結構大変だったわ」
「ライナは何ともなかったでおじゃるか?」
「実を言うとアタシも限界だったわ。身体中の感覚がまるでなくて朦朧としていたもん。だけど、あんな雷程度じゃ、ライナちゃんを沈めることまではできなかったってわけよ」
すると反対側でレイチェルが起き上がった。
「ライナちゃん、迷惑掛けたわね」
レイチェルが言った。
「そんなことないですよ。さて、それよりもカーナギスさんが起きないんだけど、円卓の儀式どうする? ただ椅子に座って念じてれば良いみたいだけど」
「念じるというよりは、記憶を辿るようにってカーナギスさんはおっしゃってたわ」
レイチェルが合流してきて言った。
「麻呂達だけでもできそうでおじゃるな」
「それに結界は既に破られているしね」
麻呂に続いてライナが言う。
「邪魔が入る前にさっさと終わらせちゃおう」
「おじゃるな」
そうして麻呂とライナは席に着いた。
昨日と同じく足元から緑色の光りが浮かび上がり二人をそれぞれ包んだ。
「記憶を辿るのよ」
レイチェルが助言する。
「そうだった。記憶記憶」
「おじゃる。おじゃる」
ライナが目を閉じて言った。麻呂も倣って目を閉じる。
運命に導かれし円卓の騎士に相応しい人物。
麻呂は必死に記憶を辿った。
無論強い人物が好まれる。三人だ。
様々な人々の顔が過ぎる中、不意に三つの影が色濃く浮き出て来た。
途端に頭に激痛が走り、麻呂は目を開いてしまった。
隣でライナも軽く呻いて目を開いていた。
三つの空席には異変は無かった。
と、その時、三つの席が緑色の光りに包まれ、それぞれ影が現れた。
そして新たに現れた馴染みのある三人は驚いたように周囲を見回した。
ザンデ・クライム、リシェル・ルガー、グシオン・ノヴァーだった。
「何だ、変な光りに包まれたと思ったら」
ザンデが驚きの声を上げる。すると彼はライナと麻呂の姿を見付けて言った。
「ライナ、麻呂、お前達はエルへ島に向かったんじゃ無かったのか?」
「そうだよ。ここがエルへ島だよ」
ライナがにこやかに応じると、ザンデとリシェルは驚いたような顔をした。
「どういうことだ? どうして俺がエルへ島にいる!?」
もう座席は光ってはいなかった。
「簡単に説明するね」
ライナが言うと、呼び出された三人は揃って頷いた。
「このエルへ島を狙う魔人を討伐するためにアタシ達は選ばれたの。名付けてエルヘ円卓の騎士」
「いいえ、新生エルヘ円卓の騎士団ですよ」
声がし、神官のカーナギスが歩んできた。
そしてライナに代わって事情を三人に説明し始めた。
異界に住む魔人ディアブロがこのエルへ島を狙っていること。それを止めることができるのはここに導かれた円卓の騎士でなければならないこと。最後に突然の召喚のことに謝罪し、カーナギスの説明は終わった。
「選ばれるなんて名誉なことです」
リシェルが言った。三人とも幸い旅姿で鎧を着、各々得物をぶら提げていた。
「私程度の剣術が評価されたというなら、人々のために全力で魔人討伐に臨ませていただきます」
「うんうん、リシェルが良い人で本当に良かったよ。ありがとー!」
ライナが感動するように言った。
「エルへ島ってことはここ南の果てだろう? 俺は北に居たんだぞ。また最初から就職活動の、いや、旅のし直しか」
彼にとっては理不尽なことだったらしい。ザンデがそう言った。
「いや、呼び出されたなら、送り出すことも可能ではないのか?」
兜を被った端正な顔つきのグシオンが言うと、カーナギスが頭を振った。
「申し訳ありませんが、それはできません」
「ならばまた港で船を待っている間にエルヘ共に金をせびられるわけか」
一度エルへ島に足を運んで痛い目を見たグシオンがそう言うと、カーナギスが再び頭を振った。
「あの行き過ぎた行為も魔人に関わる問題だったのです。魔人ディアブロさえ討伐できれば、もう誰も理不尽な額のお金を求めたりはしません」
「そうか。もう路銀も尽きかけていたところだ。この島を無事に出るには魔人を斃すしか道はないというわけか」
グシオンも彼なりに決意を固めたらしい。
そして麻呂と周囲の目はザンデに集まった。
「な、何だよ? ああ、分かった。行けば良いんだろう。その魔人何とかを退治しによ」
「兄貴、頼りにしてるよ。グシオンもありがとう」
ライナが言った。
その時だった。
「ヌヴォー」
聞き覚えのある声が外から聴こえた。
「ゴレーム達が来たわよ」
入り口に駆けていったレイチェルがそう言った。
「ゴーレム?」
ザンデが首を捻った。
「この神殿の結界は破られております! 私が結界を再び張り直すまでの間、皆さん、敵の排除をよろしくお願いします!」
カーナギスが言った。
「ゴーレムはディアブロのしもべ、つまり敵でおじゃる!」
麻呂が言うと、困惑気味だったザンデ、リシェル、グシオンは頷いた。
そして新生エルヘ円卓の騎士団は得物を引き抜き外へ飛び出して行ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます