第三十五話 「神殿防衛戦(その二)」
「調子に乗るなぁっ!」
ライナの雄叫びが木霊し彼女は起き上がるや魔人ブランシュの剣を弾いた。
ヨロヨロと身を整え、ライナは剣を放った。
魔人ブランシュとライナは再び剣で打ち合ったが、稲妻が全身に回りながらもライナが押していた。
そして渾身の一撃が魔人の身に着ける鎧にぶつかり、粉砕した。
「おのれ、じゃじゃ馬娘め!」
その時、風を切る鋭い音がし魔人ブランシュの鎧に矢が突き立った。
「ぐっ!?」
魔人が呻きを上げる。麻呂は痛みに耐えながらゆっくりと起き上がった。
「ライナちゃん、少し休んでなさい! 私が魔人の相手をするわ!」
レイチェルが疾風の如く飛び出し、山刀の二刀流で魔人に挑みかかった。
「レイチェルさん、アイツの剣には触れないで! 身体に雷が!」
苦痛をこらえる様に必死な様子でライナが忠告する。
「分かってるわ。避けて斬れば良いわけね」
レイチェルが言うと満足げにライナは微笑み、地面に片膝をついた。
「年増女め! 貴様ごときにそう簡単に我が剣を見切れるものか!」
魔人ブランシュが雷の宿った剣を振るうが、レイチェルは全て悠々と避け、鋭い反撃に躍り出た。
「くそっ! 何故当たらん!」
「ライナちゃんの言葉を借りるけど、あなたの剣の腕前はド三流なのよ!」
レイチェルの一撃が魔人の首を掠めた。微量の青い血が飛散する。
「おのれ!」
魔人ブランシュは姿を消し、遠くに姿を現して間合いを保った。
「これでもくらえ!」
魔人ブランシュが雄叫びと共に剣を振るう。
無数の稲妻が放たれる。レイチェルはそれを全て避けたかに思えたが、次の瞬間、彼女の目の前に魔人ブランシュが姿を転移させ、剣を振るった。
レイチェルはこれはかわせず得物で受け止める。武器越しに稲妻が彼女の身体に侵入し蝕む様子が麻呂には見えた。
「レイチェル殿!」
気力を振り絞り麻呂は駆け寄った。刀を振るい魔人を遠ざける。
レイチェルは地面に倒れた。死んではいない。気を失ったようだ。
「次は貴様か、今日こそ俺を侮辱するその顔を叩き割ってくれる!」
魔人ブランシュの剣が次々麻呂を襲うが麻呂もまたその甘い軌道を見切っていた。
「くそっ、ちょこまかと!」
大振りの一撃が振るわれた瞬間、麻呂は敵の懐に飛び込み、全身全霊を乗せた居合斬りを放った。
名刀牙翼が深々と鎧を失った相手の身体を切り裂いたのが麻呂には分かった。青い血が飛散する。
「ちっ!」
再び魔人は間合いを保とうと動いたがその背後に復活したライナが待ち構えていた。
「何っ!?」
その声が発せられた瞬間、魔人は背中を甲冑ごと、ライナのキルケーに切り裂かれていた。
「ぐおっ」
魔人が倒れ込む。
ライナが正面に回り込み、切っ先を向ける。
「チェックメイトね」
ライナはそう言ったが、魔人は身を起こし、剣を我武者羅に振るってきた。
「円卓の騎士の復活はさせん! それこそがこの俺の使命!」
ライナの剣が煌めき、魔人は再び鎧を割られ身体を斬られる。もはや敵ながら満身創痍で悲壮感に溢れていた。それでも今回の魔人ブランシュは逃げる気配を見せなかった。凄い気迫で剣を振るいライナに襲い掛かっていた。
ライナはそれを避け、時には剣で打ち返していた。
「この辺で退いておいた方が良いんじゃないの?」
「黙れ、じゃじゃ馬娘! 円卓の騎士復活はさせん!」
双方の剣が幾度も交錯し、ついに痺れを切らした魔人が跳躍し痛恨の一撃を放とうとしたとき、ライナの鋭い一撃がその身体を貫いていた。
「ぐほっ」
魔人が青い血を吐き、貫かれた刀身からずり落ちて地面に倒れる。
「円卓の騎士、復活はさせん。それこそ、我が使命……」
魔人ブランシュが立ち上がろうとするが、そのまま地面に崩れ落ちた。
「悪いけど、とどめを刺すわよ。アタシ達はエルヘの人々を守らなければならないんだから」
ライナが剣を振り上げた時だった。
その眼前に不意に何者かが姿を現した。
そして手にした武器を振るい、ライナを殴打した。ライナは弾き飛ばされた。
「ブランシュ、手酷くやられたようだな」
そう言ったのは紛れもなく魔人ディアブロだった。
麻呂の全身に緊張が走る。
「ディアブロ様、申し訳ありません」
魔人ブランシュが血を吐きながら呻くように言った。
「気にするな」
ディアブロは短くそう言い、配下の頭を撫でた。
「この傷では助からんか」
「はい、ディアブロ様……」
「安らかに逝けブランシュ。時間稼ぎは俺がしよう」
「ディアブロ様……」
「生まれ変わって俺の元へまた来い。待ってるぞ」
「光栄です……必ず……」
魔人主従のやり取りが終わるころにはレイチェルも立っていた。
「そういうわけだ。少しの間、俺がお前達の相手をしてやる」
ディアブロは短槍をこちらに向けてそう言った。
刹那、麻呂の前にその姿が現れた。
居合の一撃と鋭い槍の一撃がぶつかった。
「やるな、阿保面! ついてきてみろ」
ディアブロの嵐の様な猛攻が始まり、麻呂も幾度も鞘走らせ打ち合った。
だが、ディアブロの膂力の前にやはり麻呂の手には徐々に痺れが蓄積されてきた。
「交代よ!」
背後からレイチェルの声がし、麻呂は横に飛び退いた。
レイチェルとディアブロが打ち合っている。
と、魔人ディアブロの姿が残像を残して後退した。
「穿て!」
魔人ディアブロが槍を突き出す。目にも止まらぬ速さで槍がレイチェル目掛けて伸びたが、それを横合いからライナが弾き飛ばした。
「今度はアタシが相手よ!」
ライナがディアブロに斬りかかる。ディアブロの槍があっと言う間に短槍に戻る。
鉄と鉄がぶつかり合い、剣風が周囲の干渉を阻んでいた。
ライナの一撃をディアブロは受け止めるや、槍の柄で足を払う。
転倒したライナに槍先が抜け目なく襲い掛かるが、ライナは身を転がせ、起きて、追い縋る凶刃を避けつつ間合いを取った。
「今日のアンタは本物? それともまた何割かの分身なの?」
ライナが尋ね、麻呂とレイチェルもその側に駆け付けた。
「フン、どうだろうな」
ディアブロは不敵に笑った。
「さぁ、第二ラウンドよ!」
ライナが構え、麻呂とレイチェルも続いた。
「もう、その必要は無い」
ディアブロはそう言うと槍を下げた。
魔人は傍らで眠る様に死んでいる配下を見ながら言った。
「弔い合戦はまた今度だ」
ディアブロは配下の亡骸を担ぎ上げた。
敵とはいえその行動に、麻呂も、ライナも、レイチェルも何も言えず、追撃すらもためらわれた。
そのままディアブロは森の中へと消えていった。
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