第三十四話 「神殿防衛戦(その一)」
野生のモクジンとセキジン、そして魔人ブランシュの襲撃は後を絶たなかったが、三人は全てを跳ね返し旅を続けている。
そうしてついに円卓の騎士の神殿と思われる建物を見付けたのだった。
神殿と言っても思っていたよりは小さかった。というのが麻呂の印象だった。それでも石造りの建物は苔生し、蔦が生い茂っていて、過ぎ去った年季を感じさせる。神殿は森の中に静かに鎮座し一行を待っていた。
すると、三人に気付いたように建物の中から純白の法衣を纏った何者かが歩み出て来た。
「お待ちしておりました。運命に導かれし方々よ」
法衣を纏った神官は中年の男だった。穏やかな顔立ちをし、一行を出迎えた。
「ここが円卓の騎士の神殿で間違いありませんか?」
レイチェルが問うと相手は頷いた。
「間違いございません。さぁ、どうぞお上がりになって下さい」
麻呂達は神殿の段を上がり入り口を潜った。
すると目の前に石造りの円卓と、同じく石でできた趣のある頑丈そうな椅子が五つ、卓を囲むようにして並んでいた。
「これが円卓?」
ライナが尋ねると神官の男は頷いた。
「そうです。あなた方三人と運命の結びつきが強い誰かがここで呼び寄せられます。そういえば、自己紹介がまだでしたね。私の名はカーナギス。この神殿の守り人です」
丁寧に相手が言ったのでこちらもライナが代表して自己紹介した。
「私はライナです。こちらがレイチェルさんで、こっちが麻呂です」
麻呂は正しい名前を言うべきか迷ったが、カーナギスが不意に急かした。
「敵はこの神殿を狙っています。さぁ、急いで召喚の儀を終えてしまいましょう」
カーナギスに導かれ三人は円卓の間へ入った。内部にはところどろこに苔が生えていた。ガラスの無い格子窓が左右と後ろに幾つか開いているが、それでも神殿内は薄暗かった。
「どうすれば良いでおじゃりますか?」
麻呂が尋ねると、神官カーナギスは応じた。
「皆さん、それぞれ席に着いてください。そして今までの記憶の糸を辿るのです。そうすれば運命に導かれし、残りの円卓の騎士達が召喚されます。さぁ、お急ぎください」
カーナギスに勧められ、まずはライナが椅子に座った。
するとライナの周囲を緑色の光りが覆った。
驚きつつ、次は麻呂が席に腰を下ろす。
すると同じく緑色の光りが足元から舞い上がる様にして照らし出した。
「良かった。やはりあなた方は選ばれし方々だ」
興奮気味にカーナギスが言った。
「さぁ、レイチェル殿、あなたも席に御着き下さい」
カーナギスが言った。レイチェルは訝しむような顔つきだったが、まるで思い切ったように席に座った。
するとレイチェルが椅子から弾き飛ばされた。
「これは!?」
カーナギスも麻呂もライナも驚いた。
「やっぱり……」
レイチェルは身を起こしながら言った。
「神は未だに私を御許しでは無いということね」
「どういうことでおじゃるか、レイチェル殿?」
麻呂が尋ねると、レイチェルは語った。
「昔、私は神官をしていたの。でも、神のお怒りに触れてしまって破門されたのよ」
麻呂とライナは顔を見合わせた。お互いの顔が語っていた。三人目の円卓の騎士にはレイチェルが選ばれるとばかり思っていたと。
「レイチェル殿、残念ですが、あなたは円卓の騎士に選ばれませんでした」
カーナギスが慰める様に言い、言葉を続けた。
「しかし、ならば呼び寄せられる円卓の騎士が二人から三人に増えただけです。何ら心配はいりません。麻呂殿、ライナ殿、深く念じるのです。記憶の糸を辿り、あなた達と結びつきの強いと思われる方々を探し当てるのです」
その時だった。
「円卓の騎士の復活はさせん! 我が命に代えてでも!」
魔人ブランシュの大音声が外から木霊した。
「あの三流魔人。こんな大事な時に来てくれちゃって」
ライナが言うとカーナギスが応じた。
「心配要りません、この神殿を守るエルヘ結界は強力です。魔人ディアブロでも無い限りは破られることは――」
外からガラスの割れるのに似たような音がした。
「結界が、破られた!?」
カーナギスが驚愕する。
「麻呂、儀式は中断よ。三流魔人を追い返してから続きをやるわよ!」
「そうでおじゃるな!」
ライナが言い、麻呂は頷いた。
麻呂とライナは外へ飛び出した。
「クククッ、出て来たな、じゃじゃ馬娘ども」
魔人ブランシュが待ち受けていた。
すると後から駆けて来たカーナギスが半ば叫ぶ様にして言った。
「貴様程度にエルヘ結界は破れぬはず! 一体何故!?」
「クククッ、これだ」
魔人ブランシュは手にしている剣を見せ付けた。
禍々しく所々湾曲した突起のついた片手剣だった。
「この素晴らしき我が魔剣が、エルヘ結界を切り裂いたのだ」
魔人ブランシュは高笑いした。
「剣は立派でも、どうせやることは同じなんでしょう? さっさといつも通りゴーレム達を呼びなさいよ」
ライナが悠然として言うと魔人ブランシュは鼻で笑った。
「手下などいらぬ。俺の本気を前にすれば貴様達も何ら敵ではない」
「そういうの大言壮語って言うんだよ」
ライナが言うと、魔人ブランシュは剣を空に掲げた。
「撃て、魔剣よ、力を示せ!」
途端に澄み切った空が暗黒の雲に覆われ始めた。雷鳴が轟く。
と、無数の稲妻が地に降り注いだ。
まるで鋭い鞭の様な音を立てて稲妻は止んだ。
「どうだ、見たか!」
得意げに魔人ブランシュは言った。
「大した芸だけど、当たらなくちゃ意味ないわよ」
ライナが呆れた様に応じる。
「カーナギスさんは神殿の中へ避難して!」
レイチェルが後方から合流し言う。
「分かりました、皆さん、この場はお任せします!」
カーナギスは建物の中へ駆け去ろうとした。
だが、魔人ブランシュが剣の切っ先を向けると、幾つもの稲妻が渦巻いて一直線にカーナギスの後を追い貫いた。
「がっ!?」
カーナギスは倒れた。
「カーナギス殿!?」
麻呂が声を上げると魔人ブランシュは笑った。
「ククッ、雷地獄、とくと貴様らに味合わせてくれよう。円卓の騎士は結成させぬぞ!」
魔人ブランシュが剣を振り上げると再び雨のように稲妻が降り注いだ。
その幾つかが麻呂の身体を貫いた。
激しい痛みが全身に走り、意識が混濁した。
「麻呂!」
ライナの声がした。まるで体の支えが利かなかった。麻呂は呻いて地面に倒れた。
「こんのぉ!」
ライナの声が木霊する。
痛みに耐えながら麻呂は首を動かし戦いの行方を見守った。
ライナが降り注ぐ稲妻の間を駆け抜け魔人ブランシュに迫る。
と、魔人ブランシュの魔剣と打ち合った。
両者互角に見えた。あの今までの魔人ブランシュとは思えないほどの力量に見えたが、麻呂は見破った。
魔人の持つ魔剣には稲妻が蠢き煌めいている。剣がぶつかる瞬間、その稲妻が剣を伝ってライナの身体に流れ痛手を与え動きを鈍くしているのだ。
「ちっ、今日はなかなかやるじゃない」
ライナが苦し気に呼吸をしながら言った。
「奥の手は取って置くものだろう? 今までの俺はお前達を油断させるために、敗走を重ねていただけに過ぎない」
「嘘言っちゃって」
ライナが言うと魔人は大上段から剣を振り下ろした。
「嘘では無い!」
ライナが剣で埋め止めた瞬間、彼女の身体は雷に包まれ沈んでいった。
「これこそが、俺の本来の姿なのだ! じゃじゃ馬娘、貴様は幾度も俺を侮辱したな。そのそっ首を跳ねられ、罪をここであがなえ!」
魔人ブランシュが魔剣をライナに振り下ろした。
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