第三十二話 「剣をめぐって」
「また来たの、ド三流雑魚魔人」
ライナが疲れた様に言うと相手は笑った。
「クククッ、ドワーフよ。貴様が打った最上の剣とやらは、我が主、魔人ディアブロ様にこそ相応しい。命が惜しければ大人しく差し出すのだな」
魔人ブランシュが言うと、ドワーフのグラッツではなくライナが応じた。
「何でさ。ディアブロは槍を愛用してたみたいだけど?」
「グッ、ならばこの俺にこそ最上の剣は相応しい! さぁ、よこせ!」
魔人ブランシュが半ばヤケクソ気味になってそう言い放った。
「その最上の剣なら、ほれ、この娘っ子に渡してある」
ドワーフのグラッツが言った。
「何っ!?」
「えへへ、そういうことー」
渡された剣を見せてライナが笑う。
「小娘! その剣を大人しく差し出せ! さもなければ」
「さもなければどうなるのよ? え?」
ライナが凄んだ。
「出でよ、モクジン、セキジン!」
すると雷鳴が木霊し、魔人ブランシュの背後に木のゴーレムと、石のゴーレムが合わせて十体ほど現れた。
「やっぱりね」
ライナが溜息を吐く。
「とりあえず、この剣はライナちゃんの腰に括り付けてと……さぁ、面倒だけど相手してやるわ」
ライナがキルケーを引き抜き斬り込んで行く。
と、魔人ブランシュはゴーレム達の後ろへ姿を転移させた。
「麻呂、レイチェルさん、木の方は任せるから!」
ライナがさっそく石のゴーレムを粉砕しそう言う。
「私達も行くわよ、麻呂君!」
「分かったでおじゃる!」
レイチェルと麻呂も木のゴーレムの群れの中へ飛び込んだ。
やはり緩慢そうな印象とは違い、手にした凶器を正確無比に振るってくる。ゴーレムも油断ならない相手だった。
麻呂は攻撃を避け居合で木のゴーレムを切り裂く。レイチェルも二刀流で着実に仕留めていっている。
あっと言う間に片付いたかと思ったが、魔人ブランシュは自信ありげに高笑いした。
「ククククッ、出でよ、セキジン!」
またも雷鳴の後、石のゴーレム達が姿を見せた。
「どうやら石のゴーレムを相手に出来るのは、そこのじゃじゃ馬娘だけのようだからな」
魔人ブランシュが言った。
「誰がじゃじゃ馬娘よ、三枚目雑魚! アンタの人形なんかアタシ一人で充分なのよ!」
ライナはそう言って石のゴーレム達を粉砕するが、魔人ブランシュは次々石のゴーレムを呼び寄せた。
これは放っておけない事態になった。例え勝ち目がなくとも助けに行かねばならない。
麻呂とレイチェルは頷いて飛び出そうとしたが、背後からの声がそれを押し止めた。
「待て。面白い顔のお前はあの魔人に向かえ。奴さえどうにかすればゴーレムどもの湧くのを阻止できる。そしてお前は弩で同じく魔人に狙いを定めて置け」
「ですが、ライナを助けなければでおじゃる!」
「それはワシに任せて置け」
ドワーフのグラッツは両手持ちの斧を担いで駆け、ライナに合流した。その一撃が石のゴーレムを粉砕したとき、麻呂とレイチェルは頷きあった。
「麻呂が相手でおじゃる! 魔人、覚悟でおじゃる!」
麻呂がゴーレム達の間を潜り抜け、魔人ブランシュに迫ると相手は剣を抜いた。
「ふざけた顔をして、俺を侮辱しているのか!?」
「お主の方こそ、その物言い、麻呂を侮辱しているでおじゃる!」
魔人ブランシュが剣を振るう。殺意のこもった猛攻を麻呂は避け続ける。
と、背後から矢が飛んできて甲を割り、魔人ブランシュの右肩に突き刺さった。
「おのれ、二対一とは卑怯な!」
「お主が言えた義理では無いでおじゃろうが!」
麻呂が一撃を放つと魔人ブランシュの鎧にぶつかった。
魔人が一瞬おののいたのが分かった。
麻呂は貸し与えられた刀にまるで鼓舞されるような気分で、次々、刃を鞘走らせた。
どうにか魔人ブランシュは追い付いて剣で受け止めていたが、ついにその刀身が圧し折れてしまった。
「ば、馬鹿な!」
相手は言った。麻呂は居合の姿勢を取り、隙を伺った。
と、ライナとドワーフのグラッツが合流した。麻呂との戦いに夢中で魔人はゴーレムを召喚できなかったようだ。
「お、おのれ、貴様ら覚えていろ!」
面々を見渡し、肩に突き立った鉄の矢を抜いて捨てると、魔人は雷鳴の音ともに姿を消して行った。
「何度来ても同じだと思うけどね」
ライナが言った。
二
ドワーフのグラッツは炉に火を入れ、ライナの鎧を打ち直していた。
以前、ディアブロにやられヒビが入っていた箇所だ。
麻呂達はそれができるのをのんびりと待っていた。
「終わったぞ、娘っ子」
そこには傷痕の失せた深紅の鎧があった。
「わぁ、色も塗り直してくれたんだ。ありがとうおじいちゃん」
ライナが感激して礼を述べると、ドワーフのグラッツは言った。
「魔人ディアブロの前では鎧など役に立たんであろうがな」
「そうだね」
ライナは頷いた。
「さぁ、もう行け。ワシはワシの役目を果たした。後は気楽にのんびり暮らさせてもらうわい」
これ以上、話すことは無いと言わんばかりにドワーフは背を向けて小屋の方へ歩んで行った。
「剣、ありがとうね、おじいちゃん!」
ライナが言うとドワーフは片手だけ挙げて応じた。
こうして三人は道を戻り、藪と森林に囲まれた分岐点へ戻る。
「次こそ、神殿への道でおじゃるな」
「でも、アタシの棒占いも当たったでしょ。円卓の騎士にこの剣が必要だって」
麻呂が言うとライナが応じた。
「確かにそうでおじゃるな」
麻呂は頷いた。
そしてレイチェルを先頭にして一行は改めて神殿を目指したのであった。
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