第二十七話 「魔人と円卓の騎士」

 伝令が届いたらしく、他の集落からも続々と人が押し寄せて来た。

 魔人ディアブロを討伐する勇者が現れたことに、人々は感動感激し、ある者は涙し、ある者は握手を求めて来た。

「もしもディアブロを倒したあかつきには、レイチェル殿、あなたが言う魔物との共存も視野に入れることにしましょう」

 各集落の長達が口々にそう言うのを麻呂は聞いた。

 麻呂達は日が高いうちから歓待を受けて、ライナなどは振る舞われる麦酒、葡萄酒を次々呷り、我こそは呑兵衛どもを打ち負かしていた。

「魔人ディアブロとはどのような奴なのでおじゃるか?」

 麻呂は長老に尋ねた。

「恐ろしい奴です。残虐で人を殺すことを好みます。あらゆる魔法を使い、自身、武力にも優れております。最後に戻ったエルヘ円卓の騎士の者が言うには、槍を扱うとか。その早業と剛力の前には円卓の騎士も苦労したと言いました」

「円卓の騎士とはなんでおじゃるか?」

「あなた方同様、運命に導かれた勇者達です」

 集落の住民達が勝手にお祭り騒ぎをしているので、麻呂とレイチェル、そしてライナは長老の方へ情報収集に迫った。

「これより更に森深くに円卓のある神殿があります。そこであなた方と運命を共にする仲間を呼び寄せるのです。それがエルヘ円卓の騎士誕生です。円卓の騎士の力が揃わなければ……ディアブロに勝つためには神に認められた円卓の騎士でなければ不可能でしょう」

 長老は言葉を続けた。

「現に、昔、侵略のために迷宮の外に姿を現したディアブロを退けるに至ったのも数十の豪傑集団ではなく、神殿で呼び寄せられ結成された、たった五人の円卓の騎士達でした」

「退けたってどういうこと、逃がしたの?」

 ライナが尋ねた。

「そうです。迷宮へ逃れました。魔人は魔界というところから来ているのです。そして魔人は魔界の住人達をこの世界に呼び寄せるために、弱い空間に穴を開けて進出しようとしているのです。我らエルヘ族はその穴を管理し、エルヘ結界で魔界の穴を塞ぎ、それでも進出してくる尖兵達を外部に出ないようエルへ島内に閉じ込めているのです」

 長老は話を進めた。

「ライナ殿のご質問に答える形だと、深手を負ったディアブロはその魔界の穴へ入り込み、自ら穴を塞いで傷が癒える時を待っていたのでしょう。それがもう何十年前の話です。あの時のエルヘ円卓の騎士はこの世に既におりません。ですから、今こそ、新たなエルヘ円卓の騎士が結成されなければならないのです」

「私は以前、進出してきた魔界の者と戦ったことがあります」

 レイチェルが言った。

 長老も、麻呂もライナも驚いて彼女を見た。

「魔界の穴を塞ぐには神官の聖なる術法が不可欠なはずです。あなた方は、いえ、先代の円卓の騎士達は、穴が開かぬ様に封を施さなかったのですか?」

「施しましたとも。ですが、傷の癒えた魔人ディアブロはその封印すらも打ち破るほどの力を兼ね備えていたのです。ディアブロさえ討てれば、我らエルヘ族の作った強力な聖なる札で穴を塞ぐことは可能です」

 長老は懐から走り書きの様な文字の記された札の束を取り出し、ライナに預けた。

「読めないわね」

 ライナが言った。

「それは聖なるルーン文字です。それを貼り聖なる五芒星の形を作ることで魔界の穴を完全に塞ぐことができます。無論、ディアブロほどの力を持った魔人の前ではやはり危いかも知れませぬが……」

 長老は肩を落とした。

「ま、つまりは、ディアブロを斃して、魔界の穴にこのお札を貼れば良いわけね。聖なる五芒星を描いて」

 ライナが言うと、長老は頷いた。

「とりあえず、あなた方はまずエルヘの円卓の神殿を目指しなされ。そこであなた方と運命を共にする選ばれし円卓の騎士を呼び寄せる、いや、召喚するのです」

 長老はそう言うと突然激しく咳き込んだ。

 口元を押さえた手からは血が流れ出ていた。

「長老殿!」

 麻呂は驚いて声を上げると長老は言った。

「なに、心配はいりません。孫が、いや、リンが立派になるまではワシは死にませぬ。ですが、申し訳ないのですが少々疲れました。休ませていただこうと思います」

 するとエルヘの男が二人現れて長老の肩を担いでいって家の中に姿を消した。

「円卓の騎士は五人だって言ってたけど、アタシと麻呂と、レイチェルさんで三人は確定だから残りは二人か。どんな人が来るのかな」

 その時、麻呂はレイチェルの表情が一瞬、強張るのを見逃さなかった。

「レイチェル殿、どうかしたでおじゃるか?」

「いえ、何でも無いわ。長老の言う通り、まずは神殿を目指しましょう。仲間は多い方が良いものね」

 そうして三人は再び宴会が行われているエルヘ達の元へ戻った。

 だが、麻呂の着物の袖を引っ張る者がいた。

「おじゃる?」

 それはリンだった。

「どうしたでおじゃるかリン?」

 屈み込み尋ねる。

「麻呂ー、これあげるー」

 そう言ってリンが差し出してきたのは色とりどりの鉱石で繋がれた首飾りだった。

「おお、これは綺麗でおじゃるの。ライナなら喜びそうでおじゃる」

 するとリンは頭を振り、いつになく真剣な目で麻呂を見つめ返した。

「駄目。これは麻呂のなの」

 リンがジッと睨んでくるので麻呂はとりあえず首飾りに頭を通してみた。

「絶対。絶対。離しちゃ駄目」

 普段のリンと違うあまりの剣幕に若干驚いたが麻呂は頷いた。

「約束するでおじゃる。肌身離さず身に着けて置くでおじゃるよ」

 するとリンは微笑んだ。

「約束でおじゃるー」

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